悪女

Twitter 上的 Steve Bills:"今、韓国の映画「悪女」(The Villainess)  を観ています。この映画は報復と撃ち合いのアクション物の映画です。主演女優はキム・オクビンです。本当面白いです。#TheVillainess  #KimOkVin https://t.co/37JAVC7fqo" / Twitter

チョン・ビンギル監督 韓国 2018 124分 ☆☆☆

チラシが格好良くてしばらく部屋に飾っていた。韓国発、女暗殺者もの。

親を殺され暗殺者の「オジサン」に引き取られた主人公スヨンは裏社会で育ち、殺しの技術を身につけていく。成長し、いつしかオジサンを愛するようになっていたスヨンは彼と結婚するが、その直後、オジサンは部下のミスから殺されてしまう。激情に駆られたスヨンはたった一人で敵のビルに乗り込んでいく。

冒頭の主観視点による一発録り?なシーン、一人でビル一棟にひしめく何十人もの敵を次々ぶち殺していく様子がアクションも撮り方も他に類を見ないような凄さで、ここだけでも十分見る価値がある。だが、この映画の弱点は、そこで早くもピークを終えてしまうことか。特に自分はアクションを期待して見ていたので、冒頭のアクションの素晴らしさにその後の展開への期待も高まった分、暗殺者養成学校での様子やマンションに引っ越してからのメロドラマパートの意外な長さ、しつこさには辟易した。

そもそも本作は設定が妙にややこしく、主人公がヤクザ者の暗殺者集団所属から国家の秘密部隊に転籍するのはともかくとして、彼女の隣人となる好青年が実は、、、な展開や、さらには「オジサン」の素顔など、それっぽい設定を一通り材料として色々そろえているものの結局それらがドラマの魅力としてうまく機能していない、全然上手くつかいきれていない印象。

なのでこれらの設定含めドラマ部分をもっと簡潔に整理して、ついでにアクションももう一つくらいヤマ場を増やし、且つ全体で90分位にまとめてくれたら傑作になり得たと思えるだけに惜しい。韓国映画ならではの暗くじめついた雰囲気や撮り方は最高だったし、繰り返しになるが冒頭のシーンやバイクのチェイスなど良アクションも多いだけに、その他の箇所の冗長さ、全体的なダラダラ加減が余計気になってしまった。

アクションやバイオレンス好きなら一度は見るべきだが、物語の充実を求めてしまうときついかもしれない。そんな作品。

お盆の弟

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大崎章監督 日 2015 107分 ☆☆☆☆

渋川清彦はかっこいい。定期的に摂取したくなる俳優の一人。

群馬を舞台にしたモノクロ、オフビートなコメディ。渋川主演で、光石研渡辺真起子が脇を固める強力な布陣。

売れない映画監督のタカシは妻に別居を提案され、丁度ガンでの入院を終えた兄の看病を口実に実家に戻っている。ある日親友で同じく売れない脚本家である藤村から、女性と会って欲しいと頼まれる。

全編にわたってクスッと笑える緩い空気感が心地よく、主演渋川のダサかっこいい感じがよく引き出されている。そして監督の自伝的な内容を多分に投影していると思しき本作だが、現在に向き合い過去と決別し、新しい一歩を踏み出そうとする女達に比べてとにかく男共の情けなさが印象的。

いつまで経っても自らの現実と向き合うことが出来ず、区切りをつける事ができない。しかもそうして置いて行かれるほど、焦燥からまた逆ギレのような幼稚な反発に閉じこもっていく。だけどそんなタカシに、多かれ少なかれ自己を見出して恥ずかしくなる男は多いだろう。自分は観ていて身もだえした。

ただそんなダメ男ながら、終盤兄貴も藤村もいよいよ腹をくくって新しい生活に飛び込んでいく中、それでも当たり前のように「また新作の企画を考えた」といって藤村に「やっぱりお前は凄いよ」と言わしめるタカシは、監督自身の姿であると同時に一つの理想像だろうか。この期に及んで未だ映画を諦めるという選択肢が浮かびもしないタカシは根っからの馬鹿だけど、そんな迷いを持たない真っ直ぐさ=愚かさこそ、道半ばで諦めた「まともな」者達にとっては永遠にまぶしいのかもしれない。

全ての夢見る、または夢見た男達に贈られた、厳しくも暖かい映画。俳優陣の演技も申し分無く、特に主演の渋川は安直で情けないが憎めない四十男の味わいや苦味が絶妙で素晴らしい。全体的なテンポや撮り方もゆったりしたクラシカルなもので非常に好みだった。

フレンチアルプスで起きたこと

フレンチアルプスで起きたこと』作品情報 | cinemacafe.net

リューベン・オストルンド監督 スウェーデンデンマーク・フランス・ノルウェー 2015 118分 ☆☆☆☆

空気感がハネケ作品に似ていて、いつヤバイ隣人が登場するかとひやひやしたけど、そういう映画ではなかったものの、違うヒヤヒヤが。品の良い画面に渦巻くブラックなユーモアがめちゃくちゃ楽しい作品。

父トマスと妻エバ、まだ幼い娘と息子の四人家族は久し振りの休暇でアルプスリゾートを訪れる。楽しく過ごしていたが2日目の朝に遭遇した雪崩の際、ついつい我先に逃げ出してしまったトマスの姿を観て、エバや子ども達は釈然としない。以降、亀裂は段々と広がっていく。

とにかく脚本が素晴らしい。誰も怪我を負うこともなかった雪崩をきっかけに家族の信頼関係が崩れていく様を中心に据えながら、リゾートで出会う様々な他のカップル達(浮気旅行であったり、20歳ほども歳の離れた組であったり)も巻き込んで織り成される人間模様の色々が、どの場面もほどよく笑えるビターなコントといった雰囲気で器用にまとめられていて、そしてしっかりと面白い。

権威の失墜を認められず取り繕おうとしてより泥沼にはまっていくトマスと、そんな彼を見てますます失望を深めていくベラ。二人の雰囲気を察して落ち着かない子ども達。ラストに雪山で行われる家族再生の儀式はあまりにも陳腐だが、あの陳腐さをあえて引き受けてでも、それでも絆は取り戻されなければならないという切実な眼差しが、「家族」という共同体を皮肉りながらも暖かく見つめている。

と、しかしこの映画の楽しいのはそこで終わらないところ。本作ここまでは基本的に夫が株を下げる話なのに対し、最後の最後、だめ押しのように投下されるバスでのエピソードは、ここにきて妻のあれこれを嫌な感じで炸裂させていく。そして映画を閉じていく脚本家の底意地の悪さに、自分はとても共感を覚えた。

あんまりカップルや夫婦では観ないほうがいいかもしれない。そして家族を含め共同体は何でもそうだけど、「ほどほど」がいいのかなと改めて思う。そんな映画。

ついつい脚本について語りたくなる本作だけど、ヨーロッパらしい綺麗で終始落ち着いた画作りや音楽の使い方もうまく、進行テンポの塩梅なんかも丁度良い。全方位にこれといった隙のない秀作。

悲しみのミルク

悲しみのミルク:映画作品情報・あらすじ・評価|MOVIE WALKER PRESS

クラウディア・リョサ監督 ペルー・スペイン 2009 97分 ☆☆☆☆

恐怖と憎悪による呪いの軛から少女が解き放たれていく様が、乾いたペルーの風景を背に、叙情豊かに語られる。

前時代に暗躍していたテロリストから母が受けた屈辱と恐怖。その呪いをそのまま引き継いだ娘のファウスタは誰にも心を開かず、また強姦の恐怖から膣にジャガイモを入れて生活している。しかし母が死に、埋葬費用を稼ぐため街に出た彼女は、著名なピアニストの邸宅でメイドの仕事を見つける。

ファウスタが抱える闇は、自身の体験からもたらされたものではなく母親の悽惨な記憶から来ている。悪意そのものに加え、それを娘にも引き継いだ母親という二重の呪い。これを祓うことは容易ではないが、雇い主のピアニストや庭師との静かな交流を通して少しずつ心の蓋をはずしていくような日々の中、いつしか母の埋葬は、受け継いだものとの決別にも重なっていく。

呪いに囚われ心を閉ざした美しい娘の解放を描くという寓話めいた話に相応しく、抑制された演出や幻想的な画作りも似合う良作。二階から落とされ破壊されたピアノを、燃やして灰にする場面のやるせない美しさ。所どころに印象的にさし込まれる花々も、花弁の美しさだけでなく茎の濃い緑色、太さが印象的。そんな映画。

ランボー 最後の戦場

ランボー 最後の戦場||洋画専門チャンネル ザ・シネマ

シルベスター・スタローン監督 米 2008 91分 ☆☆☆☆ 

当時20年振りの再起動で話題になったランボーシリーズ復活作。

タイ北部の奥地でひっそりと暮らしているランボーのもとにアメリカからキリスト教系慈善団体がやって来て、ゴリゴリの内戦状態にあるミャンマーに入って迫害されているカレン族の支援がしたいとガイドを依頼する。最初は断るランボーだが、一行の中の綺麗な女性サラにほだされて引き受ける。何とか彼らをカレン族の村まで送り届けたしばらく後、村がミャンマー政府軍に襲われ彼らも捕らえられた事を知る。

流石のランボーシリーズで、終始残虐描写は容赦が無い。それはミャンマー政府軍による虐殺、略奪、レイプを容赦なく描いているのもそうだし、戦闘中の肉体損壊描写までストレートに描いていてこれは好みのわかれるところかもしれないが、とにかく映像に説得力がある。

「武器は持たない」「どんな人間でも殺してはいけない」などの理想を掲げつつ戦争への介入を図る慈善団体は確かに愚かで夢見がちかもしれないが、実際かなりの危険を冒しながらカレン族への医療支援など行っているわけで、一概に彼らを甘ちゃん扱いするのもよくない。などと思いながら見始めた自分だったが余りにもケダモノ集団であるミャンマー軍の振る舞いを見るに付けどんどん気持ちが萎えてくる。特にクライマックスの河原でのバトル。もはや主義も思想も何にも無い、ただただやるかやられるかのごった煮の中、次々に千切れ、吹き飛んでいく人体人体人体。そもそも一体俺達は、何でここにいてこうなったんだっけ?めくれ上がる大量の泥、血、硝煙の中では目の前の敵を排除しただただ生き延びるという近視眼的な意識のみが肥大し、それ以外の全てが後景に吹き飛んでいく。ころすころすころすころす。

気がつけばあれだけ不殺を訴えていた慈善団のマイケルは手にした石を何度も敵兵に振り下ろし、また、それまで善意に満ちた気高い聖女のごとく振る舞っていたサラは狙撃手の横で、座り込んで下を向きびくびく震えるばかりの置物と化していた。まさかのベルセルクファルネーゼみたいな演出、意地悪すぎるよスタローン!

(なおこの戦闘シーン、手振れしまくってたり、視界の隅で何かが吹き飛んでいるけど構ってられない!みたいな荒々しいカメラワークも非常に効果的に機能していた。)

ようやく全てが終わった後、丘の上から戦場を見渡すランボーの顔つきに勝利の高揚はない。誰よりも闘いの愚かさを知りながらその強さ故にいつも巻き込まれていく男、ランボー。今作も激しい学びがあった。

ただ最後、ランボー1の頃と同じ服装で故郷に戻っていくのはファンサービスとは分かりつつも流石に笑ってしまった。

死霊館

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ジェームズ・ワン監督 米 2013 112分 ☆☆☆☆

ホラーといえば夏のものっていう感覚、海外でもあるのだろうか。

大枚はたいて購入した夢のマイホームは多くの霊が住み着く幽霊屋敷だった!次第にエスカレートしていく状況の中、被害者一家は高名な心霊研究家であるウォーレン夫妻に助けを求める。

死霊館シリーズの一作目。オーソドックスな悪魔祓いもので筋書き、演出共に斬新なものはないが、丁寧な作りで要点はきっちりと押さえてくれている良作。とにかくホラー映画に大事な「怖がりポイント」の数と質、配置のバランスがとても良く、全体的にサクサク進行していくテンポの良さも相まってああ、分かってる人が作ったんだなあという安心感漂う仕上がり。なお個人的に苦手な、突然大音響でドーン!みたいな野蛮な驚かしはまあ幾つかあるものの、総合的なバランス感覚を崩すほどではなく許容範囲という感じ。

「実際にあった悪魔祓い譚」という美味しい素材を料理するにあたって、突出した良い点を作ろうと言うより、むしろ欠点を丁寧に潰していくかのような作り方をしているように見える本作は、以前見て印象に残っている個人的近年ホラーの傑作「ヘレディタリー」があえてホラーの定石を斜め上に裏切っていくのと対をなすかのような作りだが、どちらも甲乙付けがたく面白い。

霊能者夫妻の奥さんが綺麗な人だなーとは思っていたけど、ヴェラ・ファーミガだったことにエンドロール見るまで気づかず。「マイレージ・マイライフ」の印象しかなかったので驚く。あと被害者一家の五人姉妹たちが嫌になるほどの美少女揃いで、中でも夢遊病の四女シンディは絵に描いたような顔の造作。この辺りにも製作陣の抜かりのなさを感じる。総合的に隙のない出来映え。

そして見終わった後に思う、何だかんだ一番ヤバいのは、数多の呪具をコレクションしている部屋を自宅の一角にしれっと作っているウォーレン夫ではないか。「下手に処分するよりも安心だ」みたいなエクスキューズが一応あったが、だからといって自宅に呪いを煮詰めたような部屋作って生活するほうが信じられない。

Mr.ノーバディ

イリヤ・ナイシュラー監督 米 2021 92分 ☆☆☆

金型工場に勤めるパッとしない中年男ハッチは判に押したような毎日を繰り返し、妻や思春期の息子からも軽んじられている。ある夜、2人組の強盗が家に押し入ってくるが、チャンスはあったにも関わらず彼らを取り逃がすハッチ。しかし家族の中で唯一自分を慕ってくれる幼い娘のお気に入りの腕輪も持ち去られていると気付いた時、男の我慢が限界を迎える。

近年だと「イコライザー」に代表されるような、どこにでもいるような平凡男が実は凄い奴だった!系。正直まあ予想通りの内容、展開で特に書くこともないのだがそれはイコールつまらないということでなく、アクションも格闘、銃撃、カーチェイスとツボを押さえているし92分の気軽なエンタメとして非常に使い勝手の良い作品。中華が食べたくて中華屋に入ったらそこそこ美味しい中華がでてきてそりゃ満足、というような安定の観賞。

ただ強いて言うなら、主人公がいかに変化のない日常を繰り返しているかが非常にスタイリッシュ且つクールに表現される冒頭映像と、あと戦闘の描写がこの手の作品にしては妙にリアルなところが目立つ点だろうか。

本作主人公は勿論めちゃ強くて多数相手でも結局勝つのだけど、自分も殴られたり刺されたり床に叩きつけられたり、結構なダメージを負いながら泥臭く闘う。この「あえてスーパーマンにはしていない」というのはジャンルファンにとっても好みが分かれるところかもしれず、自分も正直、そもそも荒唐無稽且つベタな設定のファンタジーみたいなもんなんだから、戦闘もイコライザーのようにスーパーマンで良いのになと思わないでもなかった。だけどとはいえ、いくつかあるアクションシーンの完成度はどれも高く、豪快且つ丁寧に作られていて見応えは十分。

というわけで、やや詰めの甘い要素も散見されるものの、そもそも細かい所をどうのこうの言うような映画でもなし、総合的には満足のいく観賞。ただこれも戦闘をややリアル寄りにしたいとの意向からだろうか、肉体のダメージ表現がややグロい箇所が幾つかあるのでそこだけ注意。