天使の眼、野獣の街

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 ヤウ・ナイホイ監督 2007 香港 ☆☆☆☆

監督はジョニー・トー作品の脚本をよく書いている人らしく、自身ではこれが初監督作。サイモン・ヤムやラム・シュー、特にサイモンはえらく格好良い、おいしい役どころで最高。ケイト・ツイという主演の女性も佐藤千亜妃に似た感じで可愛い(観ているとどんどん可愛く感じてくるタイプ)。ちなみに彼女のファッションが余りにも90年代なのでてっきりその辺りの映画だと思っていたらまさかの2007年だった。当時でもすでに結構古めの格好ではないだろうか、、
厳しい尾行テストを上官である「犬頭」のお情けも込みで何とかクリアした新米警官「子豚」は、監視カメラや変装による尾行などを駆使し犯罪を追い詰める「監視班」に配属される。初仕事として最近街で頻発している宝石強盗一味の捜査に加わる事になるが、、
クライムサスペンスとして緊張感溢れる展開の中に主人公「子豚」の成長物語を織り込んだ分かりやすい話の軸がまずしっかりあって、さらに彼女のよき師匠となる「犬頭」をはじめ、内田有紀を真似するミラクルひかるにほんの少し紀香を振ったような塩梅が最高の本部司令官(エヴァでいうミサトさんみたいなポジションの人)、その脇の女性オペレーター(同じく伊吹マヤみたいな人)、はたまた「影の男」や「ファット・マン」をはじめとする敵方のキャラ立ちも良くって、メインストーリーは勿論、そういった細かい人物の魅力までを90分という短いランタイムの中に無理なく詰め込んでいる辺りは流石「暗戦」の脚本を書いた一人といったところか。凄い芸当だと思う。ただ、今作では少し物語を削ぎ落とし過ぎというか、例えば主人公と本部の人とのやりとりなど、ランタイムが長くなってもいいからもう少し横道の描写で子豚と各キャラとの交流なんか描いて欲しかったなと思わなくもないが、、ただこの90分という切れ味、この切れ味がやっぱりベストなんだろうなと、今書いていて思い直しました。
ジョニー・トー一派ということで、あけすけな香港の雑踏を感じられる映像の魅力も言わずもがな。またこの手の作品って音楽が80年代っぽいというか昔のF1のCMの感じというか、シンセ丸出しなフレーズを軸にした朝まで生テレビを感じさせるものっていうイメージでそれはそれで好きなんだけれど、本作はもう少しインダストリアル、ノイズの要素が入った抽象的でクールなサウンドが多く使われており、その辺りは流石に2007年の作品。雰囲気にも合っていて非常に良い。
というわけで良質なクライム・サスペンスとしては勿論、香港の雑多で野暮ったい雰囲気を浴びたいという用途でも良作。主人公と敵方のファットマン=ラム・シューの可愛さも含め、非常におすすめ。
ところで一番印象に残ったシーン。敵方が仕事後に集まってバーベキュしてる時に悪党同士で言い合いが始まって一触即発の空気になるんだけど、その時偶然近くのマンション一室で美女が服を脱ぎ始めたのを皆で発見、固唾を飲んで見守る。そしていよいよ次は下着を脱ぐぞ!となったところで部屋の電気が消されその場の全員で「オイーっ!」て盛大にツッコミつつ食事再開、しながら何となく「さっきは悪かった」「俺も」って仲直り→談笑。ていう最高の流れは、ここだけでも観て欲しいくらい。

香港映画で皆で飯食うシーンってなんであんなにいいんだろう。