500ページの夢の束

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ベン・リューイン監督 アメリカ 2017 ☆☆☆

自分好みの作品に出ていることが多い妹のエルはよく見るものの、姉のダコタ主演作って意外と初めて見たような気がする。あんまり顔の似ていない姉妹だが、本作でのお姉ちゃんもまあ可愛い。GAPのカタログのような何の変哲もないアメカジ、ジーンズにカラフルなセーターといったシンプルな出で立ちなのだけどそこにロングの金髪をのっけるとこれがまあはえることはえること。ばえまくってた。

自閉症のウエンディは大のスター・トレックファンで、今はグループ・ホームで暮らしている。ある時スタートレックの脚本コンテストがある事を知った彼女は熱心に執筆しやがて書き上げるが、色々あって郵送での期限を過ぎてしまう。絶望するウェンディだが自身の思いを遂げるため、ハリウッドにあるパラマウントピクチャーズまで数百キロの旅に出ることを決意する。

あらすじからすると意外だがロード・ムービー成分は少なめで、6割くらいだろうか。旅とその達成を通した主人公ウエンディの魅力や変化は勿論大事に描かれているが映画全体としてはむしろ、妹であるウエンディを大事に思いながらもやや持て余し気味な姉や、心配のあまりウエンディの行動を制限してしまいがちなホーム付きのソーシャル・ワーカーといった周囲の人達がウエンディへの目線を改めていく様が印象に残る。そうした本人や周囲の変化がややコメディめいた物語のラインに乗せながら非常にスムーズに描かれているのがまず良い点で、さらに道中でウエンディに降り掛かる幾つかのトラブルやラッキーも、そのどれもがつとめて冷静に描写されており、ハートフルな雰囲気は常に画面に漂いつつも、どの場面も決して安っぽいご都合主義に落ち込んでしまわぬよう細心の注意が払われていて、総じて脚本や演出からは玄人ぶりが感じられる。

短いランタイムの中で物語の骨となるポイントは過不足なくきちんと描きながら、その上でスタートレックを中心とした小ネタもしっかり利かせてあって、ウェルメイドとは正にこのことといったような良作。ただ半面、結局シビアなテーマを無難に、ポップに扱う事に終始しただけのような食い足りなさも残る。