フィツカラルド

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ヴェルナー・ヘルツォーク監督 1982 西ドイツ ☆☆☆☆

あんまり期待してなかったしなんせ150分以上もある映画なので2日に分けて適当に見るかと思っていたが、面白過ぎて一気に見てしまった。全く退屈せず。

アマゾン流域の田舎町にオペラハウスを建設するのが夢である事業家フィツカラルドは、一攫千金の策として未だ誰も到達していない原生林奥地のゴム林に目を付ける。しかし、そこは川の流れや原住民の抵抗などが激しいいわく付きの場所だった。

いつも白いスーツを着て横暴なんだか誠実なんだか分からない三枚目、主人公フィツカラルドを演じているクラウス・キンスキーが上手すぎる。フィツカラルドは行動力はあるもののやることなすこと滑稽にも見える夢想家だが、その愛敬ある振る舞いから現地民や娼館の女主人マリーには滅茶苦茶に愛されている。本作はこの主人公の魅力に負うところが大きいが、クラウスの演技は、台詞は勿論ちょっとした仕草や振る舞いなんかからも主人公の人たらしを見事に表現しており、説得力がえぐい。そう言えば物語の中頃で仲間の誰かが主人公に「あんたは馬鹿だが不思議な魅力がある」みたいなことを言うシーンがあるが全くもってその通り。

そしてパッケージにもなっている船での山越えシーン。「目当てのゴム林を開拓するためには船を持ち上げて山を越えるしかない」という主人公のアイディアも狂気なら、CGもないアナログ時代にその場面を実際に撮ってやろうという監督の発想も同等にやばく、そういう意味では映画中盤に続く大がかりな工事をしながら船を引き揚げていく一連の場面はそのままこの映画のメイキングドキュメンタリーのような様相も孕みながらとにかく迫力と野心、そして達成の喜びに満ちている。実際に山を切り削っている事や、白いスーツを着た監督のもと原住民達が人足として働く描写など西洋主義的な上から目線も感じるものの最終的には、そういった倫理観や聖俗を超越するかのような獰猛な美しさに、ただただ圧倒されるばかりの名場面だった。

だいたい南米の原生林で土木工事をしているのに真っ白いスーツって、狂人か天使でしかないだろう。そんな男が過酷なアマゾンの原生林で、排他的な原住民達をも巻き込み遂には奇跡を顕現させるという壮大且つ無茶なお話を、全編アナログで全く違和感なく見せているという怪作にして大傑作。プールの後の授業のような、ラストシーンの夢見心地もとてもよい。