忘れられた人々

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ルイス・ブニュエル監督 メキシコ 1950 ☆☆☆☆

メキシコの名匠ルイス・ブニュエルを初めて見る。有名な「アンダルシアの犬」「皆殺しの天使」なんかの作品概要だけは知っていたのでシュールな作風のイメージだったが、本作は別段そういったところのない、きわめて現実的な、むしろ現実的過ぎるほどに厳しい社会派映画だった。
不良少年達のボス格でありモデルの様にルックス抜群のハイボがある日、少年院を脱走して街に戻ってくる。仲間の一人であるペドロは彼に誘われ早速、盲いた老芸人を共に襲ったりする。やがてハイボは自身を少年院にぶち込んだ裏切り者だと思われるジュリアンを呼び出し滅多打ちにし、しかしやり過ぎて殺してしまう。それを見ていたペドロは人を呼ぼうと言うが、事態を隠蔽したいハイボの口車に乗せられ、一蓮托生の共犯者として金を受け取ってしまう。そしてペドロを巡る状況はここから急速に悪化していくのだった、、、
「弱い者たちが夕暮れ~、さらに弱い者をたたく~」という歌詞をまさに地でいくお話。筋だけみれば相当に無残な内容で、要はろくでもないクズ不良にいいように利用され、巻き込まれ堕ちていく純朴な少年の悲劇なのだけど、このような悲劇の前提にはそもそも負のループを生み出し続ける社会の構造があるのだという事をこの映画は強く示し、単純にハイボ一人に責任をかぶせてはい終了という安易さを許さない。むしろ、あの切って捨てたのかのように呆気なく終わるバッサリ感があまりにも印象的なラストシーンを見た後では、良心的な観客ほどなんとなく自分が責められているような、そんなばつの悪い思いを抱くのではないだろうか。そういえば本作は冒頭で「結構冷徹に現実を描いているけどよろしく」みたいな注釈が入っていたがそのとおりに冷徹で、また意地悪な映画であると思う。
ただテーマはヘヴィーなもののテンポよくサクサクと軽快に進むうえ、画面には終始、悲壮感やしんどさよりもメキシコの下町の猥雑な活気や、クラシック・ムービーに漂いがちな独特の画面の品の良さみたいなものが前面に出ていることもあって特に構えずに見ていられる。70年も前の作品が現代でも特に違和感なく見られるという事に驚愕と眩暈の両方を感じながら、そしてでも結局はラストシーンのバッサリ且つガツンとした一瞬の衝撃~finに全てが持って行かれるという、そんな作品。