三月のライオン

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矢崎仁司監督 日本 1992 ☆☆☆☆

スタッフ五人くらいで撮ったというどの付くインディーズ映画。どの場面も映像が美しくて、特にヒロイン・アイスの魅力がやばい。脚本がどうのという作品でもなく、八割方彼女の魅力と絵面で成立しているような映画だけど、自分はやられました。

いつもアイスを食べている少女アイスは兄のハルオを愛している。ある時ハルオが記憶喪失になったのをいいことにアイスは自分を恋人と偽り、同棲を始める。

全編に溢れる、むせ返るような90年代の匂い!この行き場のない退屈と、善悪の消失した地平で白痴のように無垢なヒロイン。そしてそれをただ見ているだけの男。岩井俊二庵野秀明もやや赤面するであろうこの懐かしい終末感覚をここまで正面からぶつけられたのは映画に限らずとも随分久しぶりだったが、おかげで初見なのに見ている間ずっと懐かしさを感じていた。

この手の作品見るたびになんだかんだ、中学生の頃の自分が見出したあの気怠い退廃に結局今も自分は憧れてしまうのかと切ないような恥ずかしいような気持ちになるが、何しろあの当時の文系野郎どもはみんな綾波レイに恋をしていたのだから、僕が本作のアイスにどうしようもなく魅せられてしまうのもまた全くしょうがない話である。と言わせて欲しい。

そういえば本作のアイスの部屋も綾波と同じく無機質な団地の一室で、且つ部屋にはずっと工事の轟音が響いているが、あれは本作からとったアイディアなのだろうか。

終始淡々としているし物語もあってないようなものなので面白い映画を見たい人にはとてもお勧めできないが、90年代的なアンニュイな破滅への適正が有る、あるいはむしろ物語なんて薄味希望、映画は退屈で耽美上等!というような方にはマスト。

パッケージにもなっているアイスを咥えているアイスのシーンを筆頭として、ほかにも絵になる場面がやたら多い映画で、またあの頃の色んな映画、漫画、小説によく似ているけれども絶妙にどれとも違う独特の中毒性もある。まさに「映像作品」といった一作。

これはブルーレイで再発してくんないかなー。