フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法

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ショーン・ベイカー監督 アメリカ 2017 ☆☆☆

思っていた以上に社会派な映画で、面白いとは言い難いものの、観るべき映画ではあった。

ディズニー・ランド近くに実在する、パステルカラーで彩られたモーテル「マジック・キングダム」には、その日暮らしの人々がそれぞれの事情を抱えて暮らしている。そこの一室に母親と2人で暮らす6歳のやんちゃ少女ムーニーの視線から見た日々の記録。

映画のほとんどはパステルカラーのキッチュな世界で少女がキャッキャと遊んでいる、たまに大人達もからかっているような景色で、いかにも貧しさを見せつけるような演出や悲壮感を煽る描写はない。ただ少女ムーニーの遊びを通して彼女らを取り巻くモーテル住人達それぞれの事情や関係が透けて見えるにつれ、そこには社会の網目からこぼれ落ち、身動きの取れなくなった人々のどん詰まりが段々と浮かび上がってくる。淡々としている分、かえってそのどうしようもなさがしみじみ伝わってくる。

その希望のなさ、負のループに囚われた毎日の出口なき感じは中盤以降さらに加速していく。「金持ち喧嘩せず」の逆というか、お互いに身動きの取れない狭いコミュニティー内で些細な事から人間関係が悪化し、昨日までの友達が今日からの敵になる「あるある」のリアルさ。

基本的に誰もが自分の生活で手一杯なモーテル住人の中、唯一他者に温かい眼差しを向ける(余裕がある)管理人のボビーすら、過酷な板挟みにはまっていくラスト付近の展開は、特にしんどい。(ボビー=ウィレム・デフォー、久々に見たけど凄く良い仕事をしていた)

世界で一番有名な楽園の周囲に広がるパステルカラーの地獄からは、楽園の虹や花火が見えている。少し歩けばすぐ届くような距離にあっても、そこには余りに大きな隔たりがある。そして6歳のムーニーにそんな事は関係ない。母ヘイリーの事が大好きだし、今日も友達と一緒にボビーをからかったりして、毎日それなりに楽しいのだ。

 

6歳の子どもの目線を通して資本主義社会の暗部を淡々と突きつけてくる内容で、見た目以上にずっしりとした作品。しばらく引きずった。

そして言うまでも無く似たような状況は今や世界中どこの国にもあるだろう。明日は我が身のこの世の中で、少なくとも、苦境にある誰かを助けなくてもよい理由として、自己責任という都合の良い言葉を安易に使うのはやめよう。そんな事を考えた。

ちなみに母親ヘイリー役の人は監督がインスタで見つけてスカウトした演技素人のデザイナーらしく、驚いた。気怠い感じ、やさぐれ感たっぷりのパンキッシュ美人っぷりが最高で、観ている間この人演技うまいなーとずっと思っていたのに。