さよなら、退屈なレオニー

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セバスチャン・ピロット監督 カナダ 2018 ☆☆☆

カナダだけどケベック州が舞台なので全編フランス語。全体の間やカットの切り方もフランス映画っぽい、静けさを重視しつつ一つ一つの場面をじっくり見せていく感じ。

主人公の衣裳が柄物の古着をうまくミックスさせたインディーSSWのような感じでどの場面も非常におしゃれ。この手の映画は沢山観てきたけど、一番くらいおしゃれかも。

この手のファッションが好きな人には、絵面だけでも観る価値があると思う。

高校卒業を間近に控えた17歳のレオニーは特にやりたいこともなく、ただ口うるさい母親や大嫌いな義理の父との田舎町での退屈な生活にうんざりしている。ある日、レオニーは町のダイナーで出会った中年ギター講師のスティーブに自分と同じ雰囲気を感じ、ギターを習い始める。

以下ネタバレ在り

ゴーストワールド」や「スウィート17モンスター」やら、多感で退屈な少女の大人への通過儀礼を描いた作品は多い。本作も間違いなくそれらの系譜に連なる作品ではあるけれども、シナリオの展開は斜め上。

冒頭でレオニーの孤独感や周辺環境への嫌悪を描いた上で、初めて理解してくれる大人と出会うという中盤までの筋立ては王道だが、本作を最後まで観た誰もがラストのバスのシーンで「また乗るんかい!」と突っ込んだ筈だ。冒頭にもレオニーが偶然やってきたバスに乗って「嫌な大人達」との会食から逃げ出すシーンがあって、当然それと対になっているわけだけど、「共感できる大人」であるスティーブをも同じやり方で拒絶し、車中で一人佇むレオニーを映しながら、この映画は終わる。

あのラストをどう解釈するかによって、本作の内容は大きく異なってくると思う。

17歳のレオニーにはまだまだ許容しきれないずるさや醜さを持った嫌な大人達(唯一信頼していた実の父親への気持ちも、母親に暴力を振るっていたという義父の密告によって瓦解してしまった)。あるいは共感はできるし醜さは感じないが、その繊細さ故に社会の中で孤独者となってしまっている大人(スティーブ)。

そのどちらとも触れ合った上でレオニーが出した結論は、そのどちらでもない、第3の道への意志だった、、という風に解釈したいけど、個人的には「ゴースト・ワールド」のイーニドや、「害虫」のサチ子と同じ道行きをレオニーも辿ってしまった、そんなラストに見えた。(あれほど絶望的ではないにせよ)

それは自暴自棄に任せて自分で自分を地獄行きのバスに放り込んでしまうような、そういう道だ。

自分が読み切れていないだけかもしれないけど、それまでの展開からは意外な方向に転がったラストシーンが新鮮!というよりは、色んな意味でモヤモヤが残ってしまった、そんな作品。

実母と喧嘩し、義父の愛車をたたき壊し、実父も、スティーブをも自ら遠ざけてバスに乗ってしまった彼女は、一人でどこに行ってしまうのだろう。最後の彼女は笑っているようにも、少し泣いているようにも見えた。

ところでスティーブ、まじでギター上手すぎ。本職はミュージシャンなんだろうか。