ブルジョワジーの秘かな愉しみ

Book Review We Have Never Been Middle Class by Hadas Weiss | Morning Star

ルイス・ブニュエル監督 1972 フランス ☆☆☆☆

先日シンエヴァで話題の庵野秀明のドキュメンタリーを見ていたら、何故この撮影を受けたのかとの問いに、今の時代はミステリアスである事をよしとしない人達が増えたので姿をちゃんと見せた方がいいと思った、というような事を言っていた。SNSで私生活を上手に切り売りして名を売り、それがインフルエンサーなんて持てはやされる時代には、もはや楽屋裏の神秘性とかシュールな不条理劇なんてダサいかっこつけにしか見えないのかもしれない。

ブニュエル作品鑑賞は「皆殺しの天使」に次いで二作目、本作もシュルレアリスティックなコメディで、またしてもブルジョワが停滞している。

三組のブルジョワ夫妻が主人公で、彼らが色んなところで飯を食おうとするがどこでもとにかく邪魔が入り、結局食えない。あらすじと言えばそれだけ。また彼らの内には仲間内で浮気をしている者たちがいる。またなぜか皆で着いた食卓が実は大勢の観衆が待ち受ける劇場の舞台である。また怪談話で盛り上がった後突如投獄され牢屋の外の廊下を鍵束を持ってうろつくのは、看守ではなく先ほど話題にしていた幽霊だったりする。

終始何もかもが理に落ちていかないが、不思議ととっ散らかった印象はなく、見終えた後に残るのはむしろ整然とした印象。全体としては資産家階級への社会風刺になっているのは間違いないと思うが、そのような感想を抱く非資産家階級の凡庸な観客こそ、監督が本当に狙い撃ちしている対象のようにも思えるし、そもそも、全てが行き当たりばったりの適当な様な気もする。

だけどなんだっていい。何もかもが分かりやすく理に落ちていく事がよしとされる時代に、たまにはこの様な非合理性が気持ち良いし、落ち着く。

そして一見荒唐無稽な様で、だけどリアルな我々の現実、人生にどちらが近いと言えば、やっぱり今作のようなものだろうと思う。

我々は皆、訳もわからず気付いたら存在しており、食事をしたり恋愛をしたりしながら数々の意味があるのかないのかよくわからない場面を経て、やがてほとんどの場合なりゆきに任せた、それぞれの終わりを迎える。そういった実際生きることのカオスを本作の様な作品こそ、乾燥したシリアス、あるいはヒューマニティー的な湿度に一切阿ることなく、フラット且つ軽妙に内包できているのではないか、、、と思ったりもするが、とはいえそれも結局はわからない。やっぱり適当なのか?ブニュエル

全く「あちら」には転げていかないように、ギリギリの所で絶妙なバランスを保っている。場面場面はシュール過ぎて何だか恐ろしいのだけど、後から思い返すと全体としては何だか可愛い印象すらある。今回もそんな印象。

マリエンバートにも出ていたデルフィーヌ・セイリグ、綺麗だった。