ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから

ハーフ・オブ・イット 面白いのはこれから : 作品情報 - 映画.com

アリス・ウー監督 2020 アメリカ ☆☆☆☆

話題になっていたネットフリックス製作の配信映画。メールの代筆から始まる少年少女の三角関係を軸にした普遍的な青春譚の形式を取りながら、現代を象徴する様々な社会問題が巧みに織り込まれている。

アメリカのどこにでもある田舎町。中国系で聡明なエリーはクラスメートの宿題代行などして小銭を稼いでいる。ある時、アメフト部の真っ直ぐ単細胞野郎ポールから、ラブメールの代筆を頼まれる。相手は学園のクイーンビー軍団の一人であり、またレズビアンであるエリーが秘かに憧れていたアスターであった。最初は断るエリーだったが、家庭の電気代支払いのため一度だけという条件付きで承諾する。

映画冒頭、主人公であるエリー自身によるモノローグが入る。”これは恋愛ものでも、何かが成功する話でもない”。その宣言通り、本作では立場も性質も全く違う三人が出会い、時間を過ごして、そして結局はそれぞれ違う道へと旅立っていく。ただその過程において、お互いの差異を認めた上で理解、信頼し合っていく様が非常に丁寧に描かれている。

エリーは非常に頭が良いものの、優秀で学歴もあるが英語力が足りないために望んだ職につけず家でくさっている父親の影響もあり、自分がこの閉塞的な環境から抜け出す事をどうしても想像できない。だけど、単純バカで映画も文学もまるで知らない自分の苦手人種筆頭であったポールとなりゆきで関わる内に、その裏表のない真っ直ぐさや、母親を悲しませたくないのでこの町で家業のソーセージ屋を継ぐしか無いが、それでもオリジナルレシピは開発したいといった彼なりの運命との葛藤を知っていく。

また誰もが振り返る容姿を持ち学園のスターであるかのように見えるアスターも、実はヴィム・ヴェンダースや文学を好むような内省的なところがあるが、周囲にその辺りの事を共有できる理解者はおらず孤独を感じている。だからこそ、ポール(のふりをしたエリー)が書いてきたラブレターを初めて呼んだとき理解者が現れたと喜ぶ。

一見自分とは遠い人々だと思っていた二人もまたそれぞれの事情や葛藤を抱えていて、彼らもまた彼らなりの迷いの中にいるのだと知ったとき、頑なだったエリーの心もほぐれていく。

先入観や偏見を超えて対話を開始することで見えてくる相互理解の可能性と、そしてそうした理解の先にこそ、自身の変化の可能性も大きく含まれているのかもしれない。こんな今更言葉にすると陳腐なテーマをしかし衒うことなく、シビアな現実も含めまっすぐ誠実に語りかけてくれる良い映画だった。傑作。

エリーと父親の場面や、アスターとの手紙のやり取り部にはヴェンダースの映画やカズオ・イシグロの小説など、文学的な引用も所々に散りばめられていてそれも楽しい。