ナイチンゲール

f:id:wanihiko:20210507164551p:plain

ジェニファー・ケント監督 オーストラリア 2018 ☆☆☆☆

あんまり縁が無いオーストラリア映画。予告編が面白そうだったので観たが想像以上だった。主演のアイスリング・フランシオンという方、綺麗だった。

19世紀の豪州では、イギリス人の兵隊が原住民である黒人アボリジニ達を無理矢理追い払っている〝ブラック・ウォー〟の真っ最中。女囚としてイギリス本国からその兵営に送られ将校に囲われている主人公クレアはある時、最悪サイコパス将校ホーキンスとその仲間によって、自身はレイプされた上、夫と赤ん坊は無惨に殺されてしまう。一夜明け意識を取り戻したクレアは北の町へ向かったという一味に復讐を遂げるべく、地勢に詳しいアボリジニのビリーをガイドとして雇い、追跡の旅を開始する。

アボリジニを迫害しているイギリス人という大前提以外にも、アイルランド人はイングランド人を軽蔑していて一緒くたにされる事を嫌っている事や、アボリジニの中にも色んな部族があり色々あるといった歴史背景もちらちらと出てくるが、本筋はあくまでも普遍的な復讐物語、あるいは人種や立場を超えて結ばれる友情であり、社会派とエンタメの成分が丁度良いバランスで仕上がっていると思う。

主人公であるクレアにしても単なる被害者として描写されるだけでなく、最初はアボリジニであるビリーの事を「ボーイ」と呼んで見下しており、またビリーもクレアを「また白人が厄介事を持ち込んできた」程度にしか思っておらず、そんな2人が共に旅を続けるうちにお互いの境遇や事情に触れ、どんどんと打ち解けて本当の友人になっていく様はベタながら、物語の流れと共に丁寧に描写されていて素直に感情移入できた。本作においてこの二人の関係性の描写て本筋である復讐譚の成り行き以上に大事だと思っていて、ここが適当だと全体が一気に陳腐になるところ、本作はぬかりなかった。

ただ反面、クライマックスの展開はやや斜め上でもっとストレートにいって欲しかったという思いもなくはないが、そこに至るまでに丁寧に積み上げてきた二人の関係性が非常にいきるものでもあり、やっぱりあれはあれで素晴らしかった。

決して後味のいい映画ではないけれども、当時のハードな背景をきっちり描いた上で、それを信頼で乗り越えていく主人公達の旅をとても魅力的に描いている。また大筋以外の細かい箇所も配慮や目配せが行き届いた傑作。生ぬるい希望を捨て、誇りをもって立ち向かった者達に敬意を送りたい。それがどんなに、震える手脚でなされたものであっても。