mid90s ミッドナインティーズ

映画『mid90s』 ジョナ・ヒルが編むパーソナルで普遍的なストーリー - コラム : CINRA.NET

ジョナ・ヒル監督 アメリカ 2018 ☆☆☆

音楽が冒頭から何やら不穏な、普通じゃない感じでこれは誰だ?と思っていたら案の定トレント・レズナーだった。主役の少年はめちゃ可愛く、そのお母さん役の人もめちゃ綺麗。

90年代央ばのロス。シングルマザーで忙しい母と、意地悪な性格の兄貴と共に暮らす13歳の少年スティーヴィーは、どこにも居場所がないと感じている。あるとき偶然見掛けたスケートボードに興味を抱いたスティーヴィーは、勇気を出して入ったスケートショップに屯する4人組と次第に仲良くなっていき、同時にいけないことも色々と覚えていく。

80年代初頭のイギリスで行き場のない若者がスキンズのコミュニティに入り、やがて極右に取り込まれていく様を描いた「THIS IS ENGLAND」という映画があったが、本作はそれの90年代アメリカ版という感じ。ただ本作における90年代という時代やスケートカルチャー、当時のファッションや音楽ってよくも悪くも舞台装置以上の役割は果たしておらず、脚本の枠組みは非常に普遍的なもの。それこそ「THIS IS ENGLAND」のような、「あの時代だからこそ、こうなってしまった」という印象は本作からはあまり受けない。

決して悪い内容の映画ではないのだけど、そこが食い足りなかった。せっかくタイトルにまで「90年代」を冠しているのだから、もう少し物語の芯の部分に、その時代の精神みたいなものを食い込ませて欲しかったという気持ち。

そう、正直言うと自分は途中から主人公の兄貴がいつキレるんだろうかと思っていた。結果そんなシーンは別になく、予測は外れ、割合暖かい感じで映画は終わって、それはそれでいいのだけど。。ただそもそもこの感覚自体が未だに90年代を引きずっている人間の悪癖なのだろう。

世紀末で、不穏な空気があって、実際それが具現化したような事件も沢山あって、でも終幕の予感を濃厚に含んだその不穏さに、当時十代だった僕らはどこか妙な安らぎを見出していた。すでに携帯は普及していたけれどまだネットはなかった頃の抽象的な退廃。あの感覚に、今でも自分は懐かしさ混じりの憧れを抱いているのかもしれない。

エンドロールを見ている間、本作の内容とは離れて、何となくそんな事を考えていた。

ところでdinasour jrのMVで、スケートボードで転ぶJ・マスキスをスローで撮ってた曲は何だったっけ。何だか無性にあれが見たくなる、そんな作品。