ポルトガル、夏の終わり

ポルトガル、夏の終わりの上映スケジュール・映画情報|映画の時間

アイラ・サックス監督 米・仏・ポルトガル 2019 ☆☆☆☆

イザベル・ユペールっていかにもその辺にいそうな、平凡な感じの女性なのに、画面の中ではいつ見ても不思議な華があって、たまに凄く見たくなる。

死期を悟った大女優フランキーは景勝地であるポルトガルのシントラに、旅行という名目で親族や家族を呼び寄せる。それぞれに様々な問題や関係の軋轢を抱える一同だが、フランキーにはある目的があった。

邦題は情緒深い感じだけど、現代は「フランキー」という主人公の名前そのままのシンプルなもので、実際、映画の内容もそのようなものであった。群像劇のようで、あくまでもフランキーその人の人生、その黄昏を浮き彫りにする。他の全てはそのためにあるような作り。

演出やテンポは非常に淡々としていて、アキ・カウリスマキジャームッシュを彷彿とさせるオフビートな感触が心地良い。シントラという美しい舞台の景観を山から海から街からフルに使った映像の質感の素晴らしさもこれらの監督と似ているかもしれない。(本作を見た人は洩れなくシントラに行ってみたくなるだろう)

押しつけがましいものは一切無いが、どのシーンもちょっとした人間の交差による機微や哀愁、喜びや別れの予感がじんわりと盛り込まれていて味わい深い。何気ない小さな場面を丁寧に積み重ねることで、段々と大きなものが浮かび上がっていく。

そして映画冒頭から何度もキーワードとして繰り返される「明日、山の上で会いましょう」という呼びかけ。このクライマックスというには余りに地味なラストシーンがまた、印象に残るいい場面だった。

夕暮れ直前の美しい山頂に、予めひとり佇み、皆を迎えるフランキー。その表情は愛情とも諦観とも誇りともとれるような、そのどれでもないような絶妙なもので、そもそもイザベル・ユペール目当てで本作をみた自分としてはこれこれ!といった感じで大変満足。ついつい情感豊かに撮ってしまいそうになるあんなシーンを、まるで山頂定点カメラのような味気ないロングの固定で長回ししている、突き放した監督の撮り方も非常に共感した。

あくまでも感情に溺れない手付きにて、サラリと情感豊かな傑作。あと今更だけど皆演技上手い。