女は二度決断する

女は二度決断する | 映画の動画・DVD - TSUTAYA/ツタヤ

ファティ・アキン監督 ドイツ 2017 ☆☆☆☆

トルコ人の夫と幼い息子の三人で暮らすカティヤは幸せな日々を送っていたが、ある時たまたま友人とエステに行くため息子を夫の店に預けた日、夫を狙った爆弾テロが起き2人は帰らぬ人となってしまう。絶望するカティヤは自殺までも試みるが、ネオナチ系の極右組織に属する夫婦が犯人として捕まったとの報を受け裁判に出廷する。しかし紆余曲折の裁判を経て、結局容疑者達は証拠不十分で無実となってしまう。

傑作。胸ぐらをつかまれて壁に叩きつけられるような鑑賞。相当重たいパンチだった。

お話としては非常にシンプルで分かりやすい話だが、主人公カティヤを演じたダイアン・クルーガーの上手さと、また彼女の心の小さな揺れまでも微細に掬い取って表現する画面演出がどの場面でもよく効いていて、特に裁判終了後からのシーンは見ていて少しずつ刃物を差し込まれる様なきつさがある。

B級映画の主人公の様にカティヤが単純な復讐者なら良かった。しかし本作はそうではない。だからこそ彼女の葛藤、特に罪悪感から来る自己破壊衝動と、復讐の念が彼女の中でどうしようもなく混ざりあっていく複雑さがとてもリアルに描かれており、時にススキの生い茂る原野や夜の海辺を一人歩くカットを交えて語られるその心象は、あまりに静かで美しいが故に、最早誰の手も声も届かない断崖まで彼女がひとり来てしまっている事を逆説的に鮮やかに暗示していて、とても綺麗な画面なんだけれどそう思えば思うほど彼女の絶望の深さ、この世界のどうしようもなさの一端をのぞき見るような感覚に付き合わなければならない。

ラストシーンの彼女はもはや復讐者というより、苦渋と悔恨に満ちた自身の生からの解放をただただ淡々と期待している、そんな風に自分には見えた。潔くて美しく、圧倒的に絶望的なラストだった。

復讐など愚かだ。確かにそうだろう。だけどじゃあ一体、ほかにどうしようがあったというのだろう。カティヤはあの破滅に身を焦がす以外、一体どう生き延びればよかったというのか。そんな映画。