お盆の弟

Amazon | お盆の弟 [DVD] | 映画

大崎章監督 日 2015 107分 ☆☆☆☆

渋川清彦はかっこいい。定期的に摂取したくなる俳優の一人。

群馬を舞台にしたモノクロ、オフビートなコメディ。渋川主演で、光石研渡辺真起子が脇を固める強力な布陣。

売れない映画監督のタカシは妻に別居を提案され、丁度ガンでの入院を終えた兄の看病を口実に実家に戻っている。ある日親友で同じく売れない脚本家である藤村から、女性と会って欲しいと頼まれる。

全編にわたってクスッと笑える緩い空気感が心地よく、主演渋川のダサかっこいい感じがよく引き出されている。そして監督の自伝的な内容を多分に投影していると思しき本作だが、現在に向き合い過去と決別し、新しい一歩を踏み出そうとする女達に比べてとにかく男共の情けなさが印象的。

いつまで経っても自らの現実と向き合うことが出来ず、区切りをつける事ができない。しかもそうして置いて行かれるほど、焦燥からまた逆ギレのような幼稚な反発に閉じこもっていく。だけどそんなタカシに、多かれ少なかれ自己を見出して恥ずかしくなる男は多いだろう。自分は観ていて身もだえした。

ただそんなダメ男ながら、終盤兄貴も藤村もいよいよ腹をくくって新しい生活に飛び込んでいく中、それでも当たり前のように「また新作の企画を考えた」といって藤村に「やっぱりお前は凄いよ」と言わしめるタカシは、監督自身の姿であると同時に一つの理想像だろうか。この期に及んで未だ映画を諦めるという選択肢が浮かびもしないタカシは根っからの馬鹿だけど、そんな迷いを持たない真っ直ぐさ=愚かさこそ、道半ばで諦めた「まともな」者達にとっては永遠にまぶしいのかもしれない。

全ての夢見る、または夢見た男達に贈られた、厳しくも暖かい映画。俳優陣の演技も申し分無く、特に主演の渋川は安直で情けないが憎めない四十男の味わいや苦味が絶妙で素晴らしい。全体的なテンポや撮り方もゆったりしたクラシカルなもので非常に好みだった。