マイ・ブックショップ

映画『マイ・ブックショップ』あらすじと感想レビュー。イザベル・コイシェ監督の最新作の見どころ

イザベル・コイシュ監督 スペイン・英・独 2019 112分 ☆☆☆☆

題名や粗筋から何となく物語重視の作品かと思って観たが、どちらかというと絵面の映画だった。

ある老女が少女だった頃を回想する。50年代イギリスの田舎町、戦争で夫を亡くした未亡人=フローレンスは亡き夫との夢だった本屋を開くが、女が一人で商売することに保守的な住民や権力者達は眉をひそめる。ただ村はずれに住む読書好きの老紳士だけが、彼女に興味を示す。少女はその店でバイトを始める。

主人公フローレンスを演じるエミリー・モーティマーの演技が上手くてびっくりすることや、少女を観察者としてお店とフローレンスの顛末を描く物語もよかったけど、個人的には圧倒的に衣装や画面の色彩に目を奪われる鑑賞だった。

とにかくどの場面も豊かでありながら決してうるさくはない画面、色彩や調度が繊細且つ美麗に撮られていて、よく映画やゲームグラフィックへの褒め言葉として「どの場面で停止しても絵になる」なんて言われるが、本作も正にこれ。特に主人公と少女の衣装はどの場面も違ってどの場面も素晴らしく、改めて英国のクラシカル・ファッション及び色彩感覚が自分のツボであることを確認した。またそこまで画面の力が強いと何となく見疲れしそうなものだけど、本作はイギリスらしい曇天が延々と続くやや鬱屈した物語、話のテンポや各人の台詞も全体に淡々としたトーンであることが色彩豊かな画面と奇跡の調和をみせており、画面と物語が、お互いにうま味を残しつつ臭みは打ち消し合うような絶妙なバランスで成立している。

宣伝ポスターの絵面は結構地味目なのでどちらかというと物語を楽しむつもりで観始めたが、それ以上にファッション映画として楽しんでしまった作品。公開当時はあんまりお洒落売りみたいな広告をしていなかったような気がするけど、もう少しその方向での宣伝をしてもよかったのでは、、などと余計な事を考えてしまった。そんな作品。

ちなみに重要なキーパーソンとして登場する本好きな老紳士。彼の演技も上手すぎてびびった。