スリ(掏摸)
ロベール・ブレッソン監督 仏 1959 76分 ☆☆☆☆
どこかで見掛けたヒロインが凄く綺麗だったので鑑賞。ロベール・ブレッソン初見。ウィキによるといわゆる役者らしい「演技」を嫌い、作品毎に素人ばかり起用し続けたという。宮崎駿か。
パリで貧しい暮らしを送る青年ミシェルはある時ほんの出来心からスリに手を染めるが、それは次第に仲間を伴った大がかりなものへとエスカレートしていく。
冒頭にこれは犯罪映画ではなく、青年の悪夢的日々からの脱出を描いたもの云々という字幕が入るとおり、孤独で不器用な青年の心情がスリという行為を通して内省的に描かれる。スリは勿論犯罪だが同時に彼にとって唯一の社会との接点であり、実際仲間も出来る。酒場で刑事相手に自身の行為を必死に正当化しようとするミシェルの姿は滑稽だが切実。そしてそんなやるせない青年の孤独が紆余曲折を経て、最後にはヒロイン・ジャンヌとの愛によって解けていくという物語。こうして粗筋だけ書くとまあ結構なご都合主義に思えるが、観念的な側面の強い作品でありスリ行為もヒロイン周りの描写も、いわば映画の狙う情景描写のための小道具程度にしか扱われていないため、ストーリーがご都合展開である事の臭みは観ていて意外と気にならなかった。
モノクロで映されるパリの街は広大で人も多いが奇妙に静かで、まるで夢の中のように現実感がなく、その中でわずかな関係者とだけ触れ合いながら閉じた世界を彷徨する主人公の寄る辺無さが画面全体に薄くずっと貼り付いている。この品の良い虚無感みたいなものに共鳴できるかどうかが、本作を楽しめるかどうかの一つ分かれ道かもしれない。
静かな演出、美しい画面、漂う虚無感にやがて訪れる救済。少し実際的なお話の流れと内省的な雰囲気のバランスが悪い部分があるかなとは思うものの、十分良作。
今ふと思い至ったが、ギャロの「バッファロー66」にキャラクターや筋立てが似ているかもしれない。年代的にはあちらがかなり後だが、参考にしたところがあったのだろうか。ヒロインによって都合良く主人公が抱きしめられるようなラストも同じ。