百年恋歌

真紅のthinkingdays 三個年代、三種時光、三段情縁~『百年恋歌』

侯孝賢ホウ・シャオシェン)監督 台湾 2005 139分(三部合計) ☆☆☆☆

エドワード・ヤンつながりで知ったホウ・シャオシェン。全編、言葉少なで静かな画面が美しい。特に二部の衣裳とインテリアは白眉。

1966年、1911年、2005年とそれぞれ違う時代を舞台にした三部構成で、主人公の男女は同じ役者が演じるが、各時代の主人公が血縁だとか、状況や関係がどこかでリンクしているとかいったせこい仕掛けはない。第一部のビリヤード場の男女は一番ノーマルな映画らしい作りで、二部の娼妓と革命家はセリフ無しのサイレント劇、三部は現代の都会が舞台で塚本晋也作品のような、やや硬質で虚無的な画面にとがった編集も際立つクールな質感。

全篇に通底する美意識もありながら、各部独自の見映えがちゃんと意識して振り分けられており、しかもそのどれもが中途半端な印象を受けないことに驚く。色んな作風をきちんと自分のものにしているというか、かなり器用な監督なのだと思う。脚本はどれも特に起伏のあるものではないが全体的に喪失、哀しみの予感が静かに満ちているテイストで、そのゆったり、淡々とした起伏のなさが雰囲気のある画面によく似合っている。(第一部はもう少しハッピーな感じかも)。

あと特に書いておきたいのが三部にて、ヒロインがボーカルを務めているバンドの曲がライブシーンやその他のBGMとしても効果的に使われているが、この曲がアシッドフォークとローファイポストパンクの融合みたいな気怠く安っぽいサイケソングで、映画の流れ関係なくとも非常にかっこいい曲。少し話が逸れるが、映画の中でオリジナルのバンドや演奏が登場してそれが格好良いという場合って王道ロックバンドスタイルやアコギ弾き語り、あるいは渋いブルースやジャズバンドなんかのオーセンティックサウンドであることが多いので、このようなジャンルの曲でちゃんと格好良く、且つ劇中で有機的に機能しているのは珍しいような気がする。(もしかしたら自分が知らないだけで既存の曲なのかもしれないが)

というわけで、全体的にツボな作品で素晴らしかった。一部45分ほどの三部制で、分けて見やすいのも良い。