台北ストーリー

台湾巨匠傑作選2020】『台北ストーリー』 – アップリンク吉祥寺

エドワード・ヤン監督 台湾 1985 119分 ☆☆☆☆ 

日本では長らく映画祭などの特殊な場でしか上映されず見ることの出来なかったエドワード・ヤン作品だったが、没後10年となる2017年に初めて劇場公開がなされた。自分は当時そのチラシをどこかで偶然手にとって、その絵面の雰囲気が引っかかったんだった。灰色、それに褪せた青や緑が前面に出た色彩感覚。信頼できる。

80年代半ば。伝統と革新がぶつかりあい日々姿を変えていく都市、台北。幼馴染みカップルのアジンとアリョンを中心とした人々の群像劇。

冒頭のオフィスビルの時点で相当に絵心のある監督だと分かる。全体に物静かで淡々とした映画だが、印象的で力のある画面が多い。

脚本も抽象的にお茶を濁すようなものでなくよく書かれていて、刹那的で乾いた都市の喧噪の中、過去の慣習やしがらみから抜け出す事が出来ず(特に男)、やがてその泥濘に足を取られていく者達の様子が丁寧に描かれている。特にラスト付近の路上に捨てられたテレビにまつわる演出など、普通にグッときてしまった。

しかし本作の真の主人公は何と言っても、色んな角度で魅力的に映し出される仄暗い都市、台北だろう。それぞれの刹那を抱えながら廃ビルのテラスに集う若者達を、向かいにある巨大な富士フイルムの電光看板が影に落とし込むとき、本作の魔術は最高潮を迎える。

アジア都市一流の下世話な喧噪と詩情溢れる静かな絵面が摩擦も無く同時に存在しながら、その全体をフワッとした倦怠感や焦燥が覆っているという、誰もが思い描くものの格好良く実現するのは非常に困難な美意識がここには見事に現出している。湿度や雑然とした生活感に溢れているのに、同時にアンニュイで繊細な雰囲気もむしろ増幅されていくようなこの感じ。本作が世に出た後しばらく経ってから主に欧州でじわじわ再評価されていったという流れも納得の、不思議な刹那と生命力を同時に備えている傑作だった。

都市名を背負ってる映画ってそれだけで自らハードルを高くしていると個人的に思っているが、本作ならば相応しい。