カーマイン・ストリート・ギター

映画『カーマイン・ストリート・ギター』オフィシャルサイト

ロン・マン監督 カナダ 2019 80分 ☆☆☆☆

ニューヨークのグリニッジビレッジにある老舗ギターショップの一週間を追ったドキュメンタリー。特に何も起こらないし終始穏やかな雰囲気で、ギターやよほどの音楽好きでもないかぎり観てて面白いのか?とは思うものの、自分は好きなので楽しく観られた。

70前後くらいの非常に穏やかなギター職人リックを中心に、未だに店の電話番を続けている彼の母、そしてリックの押しかけ弟子にして若干25歳のお洒落パンクガール・シンディの3人によるカーマイン・ストリート・ギターショップは、静かな通りに佇む小さな個人店ながら多くのレジェンド達もふらりと訪れる名店。

ビル・フリーゼルがふらっと訪れたり、ジム・ジャームッシュが急にアコギ担いで入ってきたり、ネルス・クラインが友達へのプレゼントギターを買いにきたりする。店頭でリックとギターや音楽の、そして人生の話をしながら何気なくギターをつま弾く彼らの演奏には、ステージとはまた違った素朴な雰囲気が感じられてそれが非常によい。

色んなスタイルの名手が登場してはちょろっと弾いていくが、店先のアンプ直演奏でもやっぱり「うわー海外の音!」という感じで感動する。よく海外で録ると音が違うとかいうのを昔から半分眉唾で聞いていたが、改めてこういった映像を見ると結構説得力を感じてしまう。音がほどよく乾いているというか、、とにかく洋楽のレコードやCDから出てくるあのサウンドが、ギター屋の試奏段階で既に表れている。

この店はオリジナルギターがまた面白くて、NYの色々な古い建物や店なんかから出る古い廃材を調達してきては、それでギターを作る。1850年創業の古いバーの、きっと多くの酒が染みこんだであろう床板やカウンターの板等々。出来上がりは想像以上にバーの床!まんまの風体で、元材の質感をまんま生かした豪快なものだが、それがまたどれもこれもぶっとい良い音がしていた。

流れの早い街ニューヨークにありながら、昔ながらの手造りギター屋さんを貫く店だが、隣の建物が高額で売りに出され、その後不動産屋の青年が明らかに店を偵察に来たり、あるいはすでにリックも客層も結構な高齢であることなど、来たるべき変化の兆しもこの映画は捉えている。ただだからこそ、この映画の多くを占めるゆったりとした余裕のある時間、何気ない店の日常やそこに満ちる音楽の気配がより輝いても見えてくるのだろう。良作。