NOVEMBER

映画「NOVEMBER」オフィシャルサイト

ライナル・サルネ監督 2017 115分 エストニア ☆☆☆☆☆

2017年製造、日本では最近公開されたエストニアのモノクロ・ゴシック映画だが、ただのそっち系映画ではなかった。耽美的なビジュアルや魔術的な雰囲気など、まず求められるジャンル的な欲求に映像・演出・サウンドなど全方位で期待以上に応えつつ、その枠内に留まらない飛躍(やや斜め上)をも色んな箇所で見せつける、異形の大傑作。見始めて最初の5分からそもそも予想外過ぎて期待と不安がどちらも膨らんだが、結果的には大きな満足感と共に、注入された異様な美意識を引きずるようにして映画館を後にした。あれから2日、いまも引きずっている。

中世エストニアのある寒村では、丁度厳しい冬の始まりとなる「死者の日」を迎えていた。白装束で森の奥からこの世に戻ってくる死者達は、生者と食卓を囲む。他にも、魔術との共存が当たり前のこの村ではクラットと呼ばれる使い魔を使役していたり、十字路で契約する悪魔もいれば、村はずれに住む魔女、夜ごと現れる人狼夢遊病の美しき令嬢、老齢にてほぼ寝たきりの男爵夫人衣装箱から日毎に美麗な衣服を盗み続ける侍女、美女に姿を変え村を訪れる疫病の精、床下に隠された宝物、愛の詩を語る雪だるま、恋敵への呪いの矢等々、、、ゴス者垂涎の要素がてんこ盛り。しかしてその恍惚とした背徳世界で展開される物語の中心はあくまで、頑ななまでに一途な少女の恋なのであった。

他のゴシック作品と比して本作が際立つ点として、通常こういった映画が向かいがちなグロテスク・ホラーやオカルト・ミステリー、あるいはほぼ物語を放棄したシュルレアルなどに回収されず、結局最後まで話の中心が単純な少女の恋からぶれていないことがあるだろう。

ここまで魅惑的な呪物どもを数多く、それもこれだけの高水準で展開できてしまったら、もっとそこに乗っかりきったアートぽい筋立ての映画に仕上げたくなりそうなものだけど、本作は終始、あくまでも中心には普遍的な少女の恋物語が居座り続ける。しかしその普遍的な俗っぽさこそが逆に、アクが強すぎてともすればバラバラになりそうな本作における各種の呪物や儀式、どいつもこいつもあやしげな人物達のエピソードを奇跡のようなバランスで強力にまとめつつ、あまつさえ、それらの聖性をも数段引き上げているように思われる。

特に画作りの面においては相当細密緻密に作り込んでおきながら、一本の映画としては、広く偶然や誤解交じりの解釈も余裕で抱き込んでくれるような、荒っぽい器の大きさをもそなえている作品。この繊細と粗雑さのバランスするところに聖性、あるいは居心地良い混沌を見出す者達にとって、本作は他に替えの効かない無二の傑作となるだろう。

とりあえずタルコフスキーやタルベーラ、溝口健二あたりが得意な人はマスト。なお音楽、同国の作曲家が手掛けたというドローンが中心だが、Sunn O)))やdemdike stareが参加したのかと思ったくらい非常に高品質で、映像との相性も驚くほど良い。