バジュランギおじさんと、小さな迷子

f:id:wanihiko:20190814130912j:plainカビール・カーン監督 インド 2015 ☆☆☆☆

バーフバリ以来のインド映画だがとにかくヒロインの少女が可愛すぎるのと、主人公バジュランギおじさんことパワン登場シーンのダンス、力はいりすぎ。

インド映画ってなんか尺長めの物が多いのは、やっぱり思いついたアイディアを基本全部突っ込んでいるからなのか、それとも映画とか演劇とか基本三時間くらいはあるものっていう伝統やお国柄があったりするのだろうか。いずれにせよ洗練されているとは言い難いがその冗長さ、しつこさと濃度がまたインド映画の魅力でもある。というわけで今作も三時間近い長尺で二日に分けて見ようかと思っていたが見始めると止まらず、結局一息で鑑賞。

生まれ付き言葉を発する事のできないパキスタンの少女シャーヒダーは、母と共に祈願旅行に出かけた先のインドで一人迷子になってしまい、さ迷ううちにインド人青年パワンと出会う。その後いろいろあって、自らの手で少女をパキスタンの親元まで送り届ける決意をするパワンだったが、インドとパキスタンは政治的にも緊張関係にあり、前途多難な旅の幕開けであった。

どの地域でも基本的に隣り合う国って緊張感が高いイメージだけども、インドとパキスタンもその例に漏れないのだという事を不勉強ながら今作で初めて知った。本作劇中では、例えば宗教の違いや過去にあった戦争、また「ドイツでも日本でも行けるけどパキスタンはビザが下りない」という旅行屋の台詞など「お隣だけど遠い国」という描写がいくつも出てくる。中でも、敬虔なヒンドゥー教徒である主人公パワンがイスラムのモスクに初めて入って行くときは、宗教色の弱い日本社会で暮らしている自分にもその緊張感が伝わるほど丁寧に描かれていた。

で、本作が素晴らしいのは上記したようなシリアスな部分はきっちりと真正面から丁寧に入れ込みながらも、軽快な展開とわかりやすい人情話、そして強引でダイナミックな音楽劇シーンの多用により、全体の感触としてはあくまで気楽に楽しめるエンターテイメントとしてきっちり成立しているところ。これがもっとシリアス且つリアル志向なお話だとなかなか重たくなってしまって、どうしても観る人も減ってしまうだろうけど、古くからある「少女とおっさんのロードムービー」分かりやすい王道の形式を踏襲しつつ、印パ関係とそれに翻弄される市井の人々というところが本作をみれば自然に理解できるような作りになっていて、凄くよく出来ている。

パワンが恋人一家と暮らしている(彼女の実家で同棲しているようなあの関係も日本人からするとなかなか想像が難しい)街の風情や、それと対照的なパキスタンに入ってからの荒涼とした雰囲気、そしてシャーヒダーの故郷である山岳地帯へ向かっていくときの自然の美しさなんかも尺が長いロードムービーだけあってたっぷり楽しめる。そしてとにかくシャーヒダー。どこにいて何をしていても可愛さ無双で、また喋れないという設定も陰のある魅力に寄与していて、全編にわたって天使みたいな存在感が凄かった。ついでに愚直なまでに正直な主人公のおじさんパワンもでっかい図体ながら歌って踊って、時に殴られたりもしながら必死にシャーヒダーを送り届けようとする姿が健気で次第に可愛く見えてくる。ウィキ観たら当時50歳だそうだけど、色んな意味でとてもそうは見えない。

粗筋だけ聞くと大王道で今更感漂うのだけれど、実際観てみると驚くほど予定調和な大枠と細部の緻密さが独特のバランスで混ざり合う、インド映画界の懐深さを思わせる傑作。そしてこの殺伐とした現代社会、こんなにもはっきりとしたメッセージを含んだ映画が製作され、しかも大ヒットしたという事実自体もとても有り難いことである。これも全てはハヌマーン様のご加護であろう。