皆殺しの天使

WOWOW:皆殺しの天使 El angel exterminador 異才 ルイス・ブニュエル ...

ルイス・ブニュエル監督 メキシコ 1962 ☆☆☆☆

異常にかっこよいタイトル(日本版でなく原題直訳)に惹かれ以前から見てみたかった不条理劇。今回ブルーレイが安くなっていたので買ったけどパッケージ裏に書いてある「ブルジョア、無限の停滞」というコピーが格好良い。またブルジョアを停滞させてんのか。本編は規模も内容も可愛らしい小品といった趣。

オペラ観劇の後、ある邸宅の客間に集った20人ばかりのブルジョア達。やがて夜も更け、誰も帰らないことにホストの夫妻は戸惑いと苛立ちを見せるが、朝が来るころ、見た目にはドアも開け放たれ何の障害も無いその部屋からなぜか誰も出て行くことが出来ないのだと悟る。水も食料も尽き始め、追い詰められた人々の理性もまた徐々に失われていく。一方その頃外部では、屋敷の中から誰も出てこない事、またなぜか誰も屋敷の敷地内に入れない事で警察まで出動、騒然としていた。

資本家や貴族社会への風刺、その他様々な比喩に満ちた現代でも通用するブラックな喜劇と捉えている感想がネットなんかには多く、自分もそういうつもりでいわば社会的な、身構えた気持ちで見始めたが、実際始まると結構可愛らしい、小さな不思議話のような味わいが強く感じられた。確かに全体に風刺的である事は間違いないし、死者も出れば諍いもあるが、この状況下に放り込まれた富裕層を皮肉って本性を炙り出してやる!というよりかはもっと広く人間社会の滑稽さ、そして誰にも普遍的な人生のままならなさを割と柔らかく描いているような気がする。最後のオチも恐ろしいながら非常に軽妙且つストレートなもので、あんまり深刻な印象はなかった。

ただあの羊達や、印象的に何度も映り込む、クローゼットの扉に描かれた聖人達。あそこだけは怪しい。本作を撮る上で監督がストレートに、深刻な気持ちで突き刺そうとしたものがあるとすればあそこかもしれないなどとは思った。

ランタイムも短めで気軽に見られる。終わった後、ストーリーテラータモリが出てきそうな親しみやすさすらあった。