闇のバイブル 聖少女の詩

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ヤロミール・イレシュ監督 チェコ 1969 ☆☆☆☆

噂には聞いていた幻想ゴシックロリータ映画の金字塔。評判通りの美しさと評判以上のわからなさ。特に物語はあまりに分からなかったので検索したところ丁寧に解説してくれているブログがあり一応全体像は見えたが、見えたところでそれはやっぱり白昼夢なのだった。

イタチと名乗る怪人によって暴かれる血とエロスの悪徳が、少女の無垢な瞳に映る。

初潮を迎えた美少女。厳粛な祖母と暮らす古い家。庭。書斎の壁の穴から覗き見する大人の情事。黒司祭。旅芸人一座。ソフトレズ。これだけでも暗黒派ゴシックロリータの素材としては十分だが本作ではさらに、吸血鬼。若返り。魔女裁判からの火炙りまでがぶち込まれ攪拌される。流石に吸血鬼あたりは味付け過剰ではないかと思ったものの、これだけの要素を上述したとおり脈絡のないイメージそのもののようなストーリーの上にこれでもかと盛り付けながら、ギリギリのところで一本の映画として破綻しないバランスの良さはきちんと担保されている。雰囲気重視の映画は適当に綺麗で退廃的な絵面を羅列すればそれなりに仕上がるかというと実はそこのバランスって非情に難しく、かといって確固とした物語で縛ると、その物語の質云々とは別の問題で、この夢の様にとりとめのない、音楽でいうとメロディやコードの進行感に縛られないような独特の浮遊は失われていく。監督の腕なのか偶然なのかは分からないが、このギリギリを攻めれるバランス感覚や馬鹿馬鹿しい大盛りなのにも関わらず不思議な品の良さには、東欧という地域、そこに古くから通底する美的感覚の豊かさを感じる。出てくるのは妖しい変態ばかり、なのに漲るこの本物感。全体的にはB級丸出しなのに衣装や小物の説得力だろうか。

原題は「少女ヴァレリエの不思議な一週間」みたいなタイトルで、大袈裟だなと思った邦題も、見た後はまあ付けたくなる気持ちもわかるというか、そんな作品。確かに時代や国境を越えて、ある界隈の人々にとってはずっとバイブルになりうるかもしれない。