スウィート17モンスター

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ケリー・フレモン・クレイグ監督 アメリカ 2016 ☆☆☆☆

映画のタイトルや雰囲気から予想した内容より斜め上の作品だったが、とても面白かった。主人公のネイディーンがとにかく可愛く、そしてちょっと切ない。ティーンの主人公に共感しながら映画を観るって楽しみ方が大分久し振りにできて楽しかった。

小さい頃から家族や周囲の友達と馴染めず、いつも孤立していたネイディーン。唯一の理解者だった父親を病気で亡くして以降は、高校生の今に至るまで親友クリスタといる時だけが楽しみ。だがあるきっかけからクリスタと、人気者でリア充タイプの兄が付き合うことになりネイディーンは混乱する。

「こじらせた少女」の顚末を描くものって沢山あると思うけど、中でもこの映画が素晴らしいのは主人公だけでなく周辺人物も無理なく魅力的なこと。マッチョな体と爽やかな笑顔で人気者の兄貴も、情緒不安定でデートアプリに夢中な母親も、兄貴とくっつく親友のクリスタも皆それぞれの立場からネイディーンをちゃんと愛しているが、ただ各人それぞれに色々と大変なので彼女に構いきれておらず、そんな彼らの振る舞いや仕方なさが本作は非常にリアル。荒ぶるネイディーンに対して劇的に愛情を示す事もなければ過剰に突き放すようなご都合展開もなく、でも心情やそれぞれの事情は痛いほど伝わってくるというお手本のような脚本。

中でもウディ・ハレルソン演じる学校の先生が良い。ティーンであるネイディーンから見れば彼はいつも教室でひとりでいる安月給の冴えないハゲの中年で、あんまり生徒を大事にしているような感じもなく、むしろドライで興味なさそうなのが却ってネイディーンにとっては気楽なグチ相手という関係。だけど中盤ある事情で初めて彼の自宅を訪れた時、それまではおそらく一ミリも想像した事のなかった彼の私生活の一端にネイディーンは触れる事になる。ここの一連がすごく良い。

当たり前だけど自分の知識や想像の外で、他人には他人の抱える色んな事情や葛藤があり、自分だけが特別な存在、まして世界に一人だけの被害者ではないのだという事。そしてそれを実はとっく分かってはいた事。思春期の終わりを静かに受け入れていく彼女の変化が如実に伝わってくる良いシーンだった。

想像力豊かな少女だからこその過剰な自意識、恐怖や幼い無知から来る他者への軽蔑がやわらいだその先でやっと自分も許せるようになって、でもそうすると同時に何かが失われていくような寂しい気配もやっぱりあって。そうやっていつの間にか大人になっていく事の安心と寂しさが上手に、暖かく描かれている作品だった。

ところで、同世代と趣味が合わず古いモノが好きで、唯一の親友さえ自分の知らぬところでいつの間にか社会に適応していくようで、気づけば自分だけが取り残されていく少女の物語って、かの名作「ゴースト・ワールド」と同じ構図だな。だけどラストの展開は対照的で、丁度陰陽のような感じがした。