パーティで女の子に話しかけるには

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ジョン・キャメロン・ミッチェル監督 イギリス・アメリカ 2017 ☆☆☆

原作小説は未読。ボーイミーツガールにパンクと宇宙人と食人を混ぜ込むとは何たる奇策と思っていたが、実際見てみると思ってた以上に奇作だった。エル・ファニングの着ている千鳥格子のオーバーコートかわいすぎ。衣裳だけでなく、全体に画面の非常にクールな作品。

1977年のロンドン。パンクに夢中の少年エンは女には縁が無いが、同じくパンク好きの仲間と同人誌など作って遊んでいる。ある時夜の公園で不思議な音楽が漏れ出している一軒家を訪ねてみると、そこではいかにもレトロフューチャーで安っぽいビニールタイツのような衣装に身を包んだ不思議な人々がパーティ?をしていた。エンはそこで「個性を尊重して欲しい」と叫ぶ少女ザンと出会う。

パンクとBMG(ボーイミーツガール)が主でエッセンスとしてSFを振り掛けているくらいに予想していたが、そのSF味の部分が相当濃厚で、下手すると一番印象に残るレベルなのは斜め上だった。あの衣装とパーティ、キューブリックの宇宙を脱臼させて一軒家にぶち込んだような全体的なテロテロさとでもいおうか、とにかくインチキ臭くて良い。

しかし作品のハートはやっぱりパンク、次いでにラブ。頻出するパンクの名曲達は勿論、躍動感たっぷりに撮られたライブハウスでのステージシーン、そしてそこに君臨する女王はまさかのニコール・キッドマンというキャスティングなんかも含めて、製作者のパンクへの真摯なリスペクトと愛情が随所に溢れている。大体、エル・ファニング召喚してあんな可愛いオーバー着せて、普通にパンク時代の青春ものとして撮ればそれだけでそこそこ広く一般受けする映画になるであろうに、それをわざわざこんな捻くれた原作を持ってきて脹らまして異星人だ!食人だ!ってやってるその精神こそ本作の肝であって、そこにのれるかどうかで本作への目線は大きく変わってくるだろう。普通の話はやんねーぞ、あとついでにジャンルのタグ付も困らせてやるぜザマーミロ!っていう精神。

自分は上記したような「普通の青春もの」を観たかった気持ちも正直あるけど、でもやっぱりこのスピリットを買いたい。なので本作は大いにありだけど、ただどうしても気になってしまう欠点もあって、それはザンがエンに惹かれていくような描写が薄いこと。これはザンの特殊なキャラクター性もあるので難しいところではあるのだが、やっぱりここの引きが弱いとクライマックスでの彼女の選択にいまいち切迫感やカタルシスが感じられず、結果作品全体のメリハリがやや緩くなってしまっている点は少し残念だった。

とはいえエル・ファニングにあの衣装を着せてロンドンを歩かせてくれた功績はやはりでかいし、それ以外の全体的な絵面はもちろん、筋書きや設定に関する独自の美意識まで、結局は大いに楽しんだ。非常に可愛く、たしかにパンク。そんな作品。