孤独のススメ

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ディーデリク・エビンゲ監督 オランダ 2013 ☆☆☆

この手のタイトルで特にオッサンが主人公だったりすると絶対観てしまう。老化、中年、孤独死、身につまされる共感、、、だけど本作に関しては邦題がとんだ勘違いであって、別にそういう映画ではなかった。ちなみに原題は「マッターホルン」。

妻に先立たれ息子は家を出てしまい、一人で静かな生活を送る初老のフレッドの生活はとても几帳面で、厳格なスケジュールに則って生活している。だがある日、ひょんなことから少し知的障害のあるような同年輩の男、ヒゲ面のテオを家に迎え入れ、共同生活を開始する。厳格なフレッドが奔放な彼を受け入れたのには、実はある理由があった。

邦題は本当に的外れというか適当で、つけた人間はこの映画の冒頭10分位しか観ていないのではないか。フレッドは確かに孤独だがそれは本作の主題ではない。 毎日若い頃の妻と小さかった頃の子どもの写真を見つめながら自分の殻に閉じこもっていたフレッドがテオとの生活を通して、現在の息子を受け入れ和解し、またそのことが原因でおそらくは仲違いしたまま死別してしまった妻との間の葛藤を解消する、そういう再生の物語。

物狂いでヒゲ面だが可愛らしい雰囲気をもつおっさんが奇しくも妻と息子の代替的な役割を果たすという構造は数あるこの手の再生譚の中でもかなり特殊だと思うが、その奇抜な設定が何の違和感ももたらさないのは脚本のうまさ、そしてオランダの田舎町の静かな景色やフレッドの暮らす小さな一軒家の品の良い調度も大きく寄与しているように思う。

全体に静かでコミカルと言うより最早脱力という感じの虚無的なユーモアが流れる中、いつの間にか観る者の悲しみまでそっと拭われているような、そんな優しい良作。