真白の恋

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坂本欣弘監督 2017 日本 ☆☆☆☆

障害者との恋愛を主題に据えた映画と言うとかの名作「ジョゼと虎と魚たち」とどうしても比較してしまうが、本作は新人監督がほとんど無名の俳優ばかりで作ったものにもかかわらず、マジでジョゼに負けず劣らずの名作だった。見始めてすぐ、ジム・ジャームッシュとかアキ・カウリスマキみたいなテンポ、シーンの切り方がまずいいなーなどと思いつつ鑑賞。

富山県射水市で父の自転車店を手伝いながら暮らす渋谷真白には軽度の知的障害がある。ある時、兄の結婚式が行われている神社で東京から来ているカメラマン油井と知りあった真白は恋に落ちる。

富山は監督の出身地らしいが、舞台となる富山県射水市新湊内川という小さな町がとても美しく撮られており、特に舟が連なる桟橋のようになっているところや見晴台からの立山連峰は見事。他にも、特に何があるわけでもないけど何気ない田舎町の風情は行ってみたいと思わせるに充分な魅力を放っている。

で、脚本が上手い。障害という要素を盛り込む以上どうしても重たくなりがち、というか観る側が構えてしまいがちなところを主人公真白のキュートさと軽やかな語り口、それぞれに存在感のある脇役達や美しいロケーションなど全ての要素をうまく使って全編、基本的には軽やかに楽しく進行させながらも、ここぞという場面ではきっちり重みのあるパンチを放ってくるという巧みなバランス感覚。

特に主人公真白をただ助けられるだけの、あるいは純粋な天使性だけの存在にしていないのが良い。彼女の冒険と挑戦が周囲の頑なさをとかしていく様子の、そういったサブエピソードの描写や織り込み具合などがどれも非常に効果的に効いていて、映画全体の奥行きを深めるのに大きく寄与している。

ただ終盤での真白の父と兄貴による行動はちょっと極端過ぎて、物語の結末に向けたややご都合っぽい筋立てに思えてしまった。あの一連にはおそらく、それまでただただ綺麗な場所として描かれている田舎町のコミュニティーの閉鎖的で暗い部分(実際この一連のみ夜である)を象徴させようという狙いもあったのだろうけど、それが見え見えすぎて引いてしまったというか。それまでを丁寧に積み重ねてきた本作だからこそ、あそこの強引さだけはやや残念だったかもしれない。

 

主要な登場人物全てが真白の事を大事に思っており、しかも一連の出来事を経て、真白も含めた全員が少なからず変化している。ついつい重たく冗長になりそうなこれらを短めのランタイムであくまでも軽妙に可愛らしく、しかしきっちり切なくも描けているという良作。そして自分は、ちっぽけだと思われている存在の思い掛けない勇気や挑戦が他の皆を変えていくという、その手のベタな話にやっぱ弱いと改めて思い知る。