ガッジョ・ディーロ

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トニー・ガトリフ監督 フランス 1997 ☆☆☆☆☆

フランス人の青年ステファンは亡き父の面影を偲び、父がよく聞いていたノラ・ルカという歌手を探して旅をしている。ある時ルーマニアの田舎町で泥酔しているロマの爺さんと言葉は通じないものの意気投合したステファンは、彼の村に暫く滞在することとなる。

排他的だが自分たちの歴史に誇りを持ち、音楽を楽しみ、昔ながらの生活を営むロマの暮らしや生活が、差別や暴力の描写も含め部外者たるステファンの視線から語られる。
自分たちのコミュニティーから一歩でれば排斥され、社会に居場所の無いロマ達だが、酒と音楽とダンスに満ちた彼らの文化が本作ではとても魅力的に映され、印象に残る。色鮮やかでありつつシックな民族衣装に身を包み、歌い、踊る姿は悲しみに彩られながらも切実な生命力と喜びに満ちており、ここまで映画の本質と音楽が根っこで融合している映画はいわゆる音楽映画でもまずないのではないか。

例えばロックバンドなんかが言う「生活に根付いた音楽」だとかの概念って正直あんまりピンとこない事が多いのだけど、この映画で見るロマ達の生活には確かに音楽が根付いていて、とても羨ましかった。ボロボロのギター、歌とリズムと踊り、、、プロミュージシャンになるとかなれないとかそういう事ではなく、命の前提として、生きるという事がそのまま当たり前に歌や演奏と重なっているかのようなあの感じ。現代の日本で暮らす自分にはなかなか難しい、憧れの感覚。

エミール・クストリッツァアンダーグラウンドと同様、生きる事のあらゆる苦しみ哀しみを、音楽とダンスの躍動が悠々と包み込んでいくとき、それがそのまま生きる事の喜びに直結していくような。そんな生命の感触が存分に感じられる作品。めちゃくちゃ印象的なラストシーンも控えめに言って最の高。

希望をみた。