泣き虫しょったんの奇跡

泣き虫しょったんの奇跡 : 作品情報 - 映画.com

豊田利晃監督 日本 2018 ☆☆☆☆

自身も十代の頃は奨励会に入って棋士を目指していたという豊田監督が、特例でアマからプロ入りを果たした瀬川晶司のノンフィクション小説を映画化したもの。久しぶりの豊田監督&松田龍平。板尾や新井浩文をはじめ、過去の豊田組がカメオも含め結構出ていて、お得感がある。

子供の頃から将棋が好きで強かった瀬川晶司ことしょったんはやがて奨励会に入り、仲間を見つけ切磋琢磨するが、プロになれないままやがて26歳という年齢制限に達する。唯一の目標を失いしばらく抜け殻のような生活をするがその後大学に入り、就職する。その間将棋からは離れていたが、自身の夢に寛大であった父の死をきっかけにアマとして再度将棋に触れ、子供の頃感じていた将棋を指すことの喜びを思い出す。そうこうする内、アマながらプロにも高い勝率を保ち続けるしょったんに思いがけないチャンスが訪れる。

一度挫折してやさぐれた主人公が周囲に支えられ、再び情熱を取り戻し挑戦するという王道なのだが、不覚にも最後の勝負ではうるっとしてしまった。豊田監督の映像が持つ独特の、間延びしてるんだか緊張してるんだかよく分からない雰囲気と、将棋という見た目には地味ながら内容は非常にシビアな勝負の世界がうまく調和していて、次々と自分や仲間達の挫折が描かれていくというダウナーな内容ながら映像的にはのんびりした雰囲気の中、クライマックスでは緊張感からのカタルシスがきっちり溢れだすという手堅い作り。特にラストのプロ昇段を賭けた戦いの場面では、ベタだなあと思いつつ深く感動してしまった。音楽の使い方や雰囲気もまんま「青い春」とか「ナイン・ソウルズ」の頃のようで、近過去が舞台である本作にばっちりはまっていた。

豊田監督って映像自体に凝った工夫や仕掛けをするタイプじゃないけど、独特のテンポ感や効果的なアップの挿入など、あとは音楽の使い方に非常に特徴があると思う。

全体に地味なのは否めないが豊田風味の出汁が滋味豊かに効いている良作。ライバルや否定者はいるものの、本当の意味で嫌なヤツは一人も出てこないのも逆にリアルな感じで好感。