僕とアールと彼女のサヨナラ

Five obscure films you should see | The Peak

アルフォンソ・ゴメス・レホン監督 アメリカ 2015 ☆☆☆☆

サンダンスで観客賞と大賞をW受賞した作品。自分のように、いわゆる難病ものに抵抗のある人ほど見て欲しい。

学内のどのカーストにも属さず、ただただ波風をたてないように生きるグレッグの唯一の趣味は幼なじみのアールと古典映画のパロディを作る事。ある日、幼児の頃は遊んでいたものの今ではまるで交流のない少女レイチェルが白血病である事が判明し、大人達に無理矢理お見舞いにいかされる事になったグレッグは、成り行きで彼女のために映画作りをする事になる。

映画作りが趣味のナード二人組に難病の少女。設定はいかにも一時期流行ったお涙頂戴だけど、本作はもちろんそのような常套句からは逸脱しており、むしろ全体を貫く柱となっている感覚は十代特有の虚無感や、死というものへの実感の無さだ。

だから本作では主人公とヒロインが恋に落ちることもなければ、特に劇的な展開もなく、ただ以前通りの生活の中に久し振りのレイチェルとの交流が入り込んでくるだけ。ただしそれは期限付きだという、その実感の無さ。

人との交流を避け、将来の目標も無く、趣味の映画作りも古典のパロディ。とにかく自発的なものを避けて生きてきたグレッグにとって、レイチェルのための映画は初めてのオリジナルで、なかなか取りかかる事ができない。だけど最終的に彼が渾身の思いで作り上げた作品は、そうした迷いも喜びも過去も未来も何もかもが渾然一体となって羽ばたいていくような優しく力強いもので、本作の全てはこのシーンのためにあるといっても過言では無いくらい素晴らしかった。まだ心の中で、人の世の言葉として整理されてしまう前のモヤモヤをそのままぶつけているような感じ。

生きていてくれて嬉しいとか死んでしまって悲しいとか、それは当然ある。あるけれども、グレッグのあの映像は、人の死を目の前にしたときどうしてもとらわれがちな生死という二元論の枠を超えた、もっとレイチェルという存在そのものへのストレートな呼びかけのように感じられた。個人的には、あのようなものを祈りと呼びたい。静かだけど暖かくて、どこまでも大きいもの。

そしてそれは、それまで曖昧で靄のような感触の中を生きていたグレッグ少年が初めてくっきりとした輪郭をもった他者と真っ向から対峙した瞬間でもあった。これは青春の通過儀礼というにはあまりに過酷な達成かもしれないが、安いセンチメンタルや恋愛的演出に溺れてしまうことなくあくまでも冷静且つ丁寧に、少年の成長を本作は描いていると思う。

別に死でなくとも、大事な誰かに何かを示したいとき、自分もあんな呼びかけをしたい。暖かくて大きいもの。そんな作品。