帰ってきたヒトラー

帰ってきたヒトラー : 作品情報 - 映画.com

ダーヴィト・ヴネント監督 2015 ドイツ ☆☆☆☆

かなり社会性の強いコメディ兼ドキュメンタリー。見る前からブラックなものだとは思っていたが、特にオチはブラック通り越して恐ろしい。原作小説は未読。

結果を出せず局をクビになったTVディレクターのザヴァツキは偶然目の前にタイムスリップしてきたヒトラー本人をモノマネ芸人だと思い込み、彼を使った企画で起死回生を目論む。

偶然タイムスリップしてくるという荒唐無稽で強引な出発点から始まるが、現代ドイツやひいては現代世界全体への鋭い風刺に満ちている。本作は脚本と役者ありきの劇映画部分と、ヒトラーに扮した主人公を実際に町中に放って人々の反応を伺うようなドキュメンタリーパートを織り交ぜた作りだが、どんな悪夢も70年も経てばすでに過去の歴史となっており、ベルリンの町をヒトラーそっくりの男が歩いていても大抵の人は、インスタのネタになりそうな有名人の面白コスプレ程度にしか思っていない。中盤で誰かが言う「昔ナチスが台頭し始めた時も、最初は皆笑っていた」という台詞が耳に残る。

ウィキによると完全に意図的なものらしいが本作ではヒトラーの人種差別主義や独裁者的なわかりやすく悪者然とした部分はあまり描いておらず、むしろ演説のうまさや周囲の機運を即座に把握し自身のアピールに利用していくような能力の高さを押し出している。何しろ彼のやったことに関してとりあえず知識としては世界中で周知の事実なわけで、だから今作では普段はまず語られる事の少ないヒトラーの能力や人となりの魅力みたいなものにあえてフォーカスすることで、劇中のヒトラーの造形により厚みと説得力が加わっている。コメディの皮を借りて、かなり際どい挑戦をしていると思う。

「私を殺すことは出来ない。私は皆の中にいる」というストレートなメッセージ。全くその通りだと思わざるを得ない。ラストシーンも非常に印象的。