SCOOP!

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大根仁監督 2016 日本 ☆☆

まほろ駅前番外地」や「リバースエッジ 大川端探偵社」などのドラマが面白かった大根仁監督の映画作品はこれが初見だが、あまりのれず。監督の得意とする漫画的というか、こってりしつつチープな味わいとパパラッチという題材はそれは相性がよいことでしょう、、と思って見たのだが、うーむ。確かにその界隈の雰囲気や匂いみたいなものは巧みに表現されていて流石なのだが、如何せん脚本が上滑りしていて、ストーリーが進行すればするほどどんどん期待していたものと違う方向に流れていき、そのまま終わってしまったというような感じ。

下世話な週刊誌SCOOPに配属された新米記者の行川野火は新人研修を兼ね、フリーのカメラマン都城静とバディを組むよう命じられる。そもそも芸能人のケツを追いかけ回すという仕事を軽蔑している上、ぶっきらぼうで高圧的な静の態度にも辟易する野火だが雑誌の売り上げという分かりやすい結果が出始めると、次第に夢中になっていく。

そもそも静があまりにステレオタイプなはみ出し者主人公であまり魅力を感じられないとか、その静に野火が惹かれていく様が唐突過ぎるとか、連続強姦魔の顔を撮ろうぜ作戦のいくらなんでもな描写とか細かいところは色々ある。しかし自分が本作で一番期待外れだったのは、今作で言うと狙われる側である芸能界で仕事をしている人間の一人としての監督が、そういった意味では敵であるパパラッチや週刊誌をどう描き、また向き合っていくのかというところに一番興味があったのだが、自分のみるところ、どうやら本作でのパパラッチや芸能誌というのはあくまでも主人公達の属性・キャラ付けのための小道具に過ぎなかった。一応会議のシーンで幾度かそういったところへ言及する場面もあるものの、とてもテーマの一つとして掘り下げられているとは言えない。

芸能人のケツを追っかけて飯の種とする芸能記者やカメラマンたちは野火の台詞にもあるようにあまりイメージが良い仕事とは言えない。しかし彼らの仕事の背後には多くの、自分では手を汚したくない人々=大衆のゲスな興味がある。「まほろ」や「リバースエッジ」で色んな人々の心の機微を細やかに描いていた大根監督が今パパラッチを主人公にした映画を撮るというなら、当然こういった構造自体、少なくともその中での芸能記者という汚れ役をどう見ているのか。それは必ずしも白黒はっきりさせろという事で無く曖昧なものであっても構わないのだが、とにかくそこに関して、一本の作品として、何らかの言及が欲しかった。

もちろん、そういった社会性みたいな所をそもそも大根監督には期待するのがお門違いなのは、そうかもしれない。大根監督のうま味は何と言っても特にサブカルチャーに関する広範な見識があってこそなし得る気のきいた小ネタの数々や、それぞれの立場や事情を抱えた人物達の心情の描写にこそあるのであって、立場そのものへの言及を期待するべきではない。そういうのが欲しいなら是枝監督でも見てろよと。

だが、それであるならば中盤のヤマ場に、強姦魔の実況検分時の素顔写真を皆で協力して撮影するという、あまりに社会的テーマ性の高い場面をもってくるのは明らかに手つきとして乱暴にすぎる。しかもあの流れでは上記した「大衆の欲望の手先であり汚れ役」ということ以外にも、「社会的な事件を扱うことは必ずしも芸能ニュースよりも高尚であるのか」というテーマまでも自動的に含んでしまっていて、こんなエピソードまで描いておいてここまで言及がないのは、本作をよっぽどそういった社会的視点を外して見ている人以外、多かれ少なかれ皆ずっこけてしまうのではないだろうか.。

というわけで要は、パパラッチという題材から多少なりとも期待した社会性が思った以上に薄く、とにかく食い足りない、自分にとってはそんな作品だった。ただ単純なエンタメとしてみれば十分に面白いし、役者達も良い仕事をしていた。特に吉田羊、滝藤賢一、リリーさんの脇役三人集は主役二人よりもおいしいくらいで、素晴らしかった。