サーミの血

サーミの血 -1- Sameblod : 殿様の試写室

アマンダ・シェーネル監督 スウェーデン 2016 ☆☆☆☆

随分前だけど渋谷のアップリンクで広告を見かけて気になっていた作品。観る前は民族的な差別をテーマに据えた社会派かと勝手に思っていたが、いざ観てみるとどちらかというと最終的には主人公個人の生き方にフォーカスしていくような作り。あと最初に一番書いておきたいこと、サーミの民俗衣装、可愛すぎ。

現代のスウェーデン。長年教師をしていた老女クリスティーヌのもとに、随分会っていない妹の訃報と葬式の知らせが届く。気乗りしない彼女だったが息子に連れられる形で、久し振りに遠い故郷へと赴く。ホテルの窓から外を眺めながら、少数民族であるサーミとして生まれながらやがて故郷を捨てた過去を回想する。

マイノリティへの差別なんて世界中どこでもいつでもあるものだとは思いつつ、スウェーデンみたいな長閑なイメージの国でもやはりあるとは、全然知らなかった。日本でいうと例えばアイヌの人々が今も昔ながらの様式で暮らしていて、それが差別されているようなものだろうか。

スウェーデン社会におけるサーミへの差別や、昔ながらの伝統的な暮らしを継いでいく以外にほぼ選択肢が与えられない運命の過酷さ。1930年代、教師たる者すら平然と「サーミの人達は脳の構造が違うから文明社会には適応できないのよ」などと言い放つ社会状況下で、テントと放牧の生活から抜け出したいと願う主人公の孤独な闘いが、スウェーデンの美しい自然を背景に丁寧に描写される。

ただ冒頭にも書いたとおり、本作はそういった社会背景を重要なテーマとして包含しつつ、作品の本筋としては「自分の願う生き方のために家族や故郷を捨てざるを得なかった人の物語」という色合いが強く、仮にスウェーデン社会や民族差別に興味を持つことができなくとも、広く共感できるような物語になっている。この辺りは賛否が別れるところかもしれないが、ただ製作陣が本作を道徳的人権的に「立派」なだけの映画にしたくなかったのであろうことに、自分はとても共感した。

そしてだからこそ、主人公が必死の思いで故郷から飛び出した先に広がっていた一般社会が決して楽園ではなかったことも本作ではしっかり描かれている。特に中盤、故郷の川で妹と水遊びして遊んだ記憶のシーンなんかは夢の様に美しく、だからこそ殺伐とした都市に生きる後年の主人公の荒涼とした感じが浮き彫りになるのがまた本作のニクいところである。

予め与えられた運命に疑問を抱き、色んなことを犠牲にしながら脱出する事を選んだ姉と、用意された運命を受け入れ、昔ながらの民族的生活を全うした妹。どちらが幸せだったのだろう。良作。