ミッドサマー

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アリ・アスター監督 スウェーデン 2019 ☆☆☆☆

以下ネタバレ有り

以前「ヘレディタリー」が非常に面白かったアリ監督は、本作「ミッドサマー」でいよいよその評価を固めつつある。本作は各所で非常に話題になっていた。

妹と両親を無理心中で失った女子大生ダニーはそのトラウマを忘れたい事もあって彼氏達とスウェーデン旅行に出かけるが、結果辿り着いた山奥の村は非常にヤバい場所だった。

前作でも耽美的な志向を感じる静かで綺麗な画面が印象的だったが、山奥の広大なスペースで好き放題に村を作っている本作ではその辺りよりパワーアップしている。夜が訪れない村に色とりどりの花が咲き、乙女達が舞い踊るその様は全く可愛らしい童話世界そのもの。そしてそれだけに中盤以降唐突に登場する暴力や性的な描写の破壊力が凄い。それも何が凄いって、最初は強烈な違和感として登場するそれらが、話が進んで村の特殊性が露わになるにつれ、段々そのような文化として馴染んで見えてくること。そしてこれは正に主人公ダニーの心情と同じで、彼女に感情移入して観ている観客ほど、どんどん違和感がなくなってくる。恐ろしい演出だと思う。

ヘレディタリー同様、今作でも「家族」が重要な裏テーマとして物語に埋め込まれており、特にダニーの目線で見れば本作は、映画冒頭で実の家族という共同体を失い途方に暮れていた彼女が新たな(胡散臭い)「家族」を見出すという構造になっている。

この二作からはどちらも、「家族」という概念への強烈な不信感や違和感が漂う。本作や前作を「変わった作りのホラー」という以上に評価している人たちというのは、多かれ少なかれそこに共鳴しているのではないだろうか。自分もその一人だ。

ホラーとしてのパンチは前作の方が上だが、「訪れた秘境はヤバい場所だった」系というスタンダードの皮をかぶりながら徐々に異様な構造が明らかになるという、前作同様凝った作りの秀作。そして赤毛の村娘。美しすぎた。