きみの鳥はうたえる
三宅唱監督 2018 日本 ☆☆☆☆
佐藤泰志の原作小説は未読。終わってから「playback」の三宅唱監督だったと気付く。
函館の夏。書店でバイトしながら友達の静雄と適当に暮らしている「僕」は、ある日大して面識もなかったバイト先の佐知子に誘われ、急速に親しくなる。すぐに静雄も交えた3人で毎晩のように遊ぶようになるが、純朴な三角関係はやがて少しずつ崩れていく。
函館の夏の夜、遊ぶ若者達の清潔感あふれる空虚さが綺麗に写し取られていて美しい。男2人も良いが、特にヒロインの石橋静河という女優さんがきれいで雰囲気もあって良いなと思っていたら、石橋凌の娘だった。確かに似ている、、、
何かがあるような感じでいつも余裕に振る舞いつつ、実は一番何にもない主人公「僕」が、初めて「余裕」の仮面を脱ぎ捨てるまでのお話。そして主役三人の関係性を物語の軸にしながら、その周囲の人物も丁寧に描かれ、映画はやがてそれらの状況全体から、人生の中でもある特別な季節の美しさと、その終わりの予感を浮き彫りにしていく。
誰もが何者でもないからこそ、自他の線引きすら曖昧な関係の中溶けあうように一緒にいられる時間と、その終わり。一緒にただ酒飲んだり飯食ったりクラブで踊ってる時間のあの虚しさと清潔さと、それでも結局拭いきれない寂しさの感触が懐かしく、愛しい。ブルーがかった静かで美しい画面も含めて、全てが青春時代の刹那的な時間、関係をうまく表象していてとても良い。
無造作に羽織った古着のネルシャツの裾を引っ張り「みてみて、昨日タバコで穴開けちゃった」と笑う彼女のまぶしさ。身近にいて気さくに話しながら、だけどどこまでも手の届かないあの感じ!を、久し振りに食らって胸が苦しい。そんな作品。
自分が役者だったら、若手の内にこんなのに一回はでておきたいだろうなー。そして若者って金持ってない方がやっぱり美しいよなーって偏見をまた強固にした。