ヘレディタリー/継承

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アリ・アスター監督 2018 アメリカ ☆☆☆☆

近年話題になるホラーと言えば「ドント・ブリーズ」や「イット・フォローズ」とかアイディア一発系の印象が強かったけど、本作の恐怖はなかなか可視化されない不条理、且つお耽美な雰囲気も漂うもの。とはいえやっぱり近年の作品らしい、それなりにわかりやすい味付けの一品であると思う。

独善的で謎の多い人であった老母エレンが死に、その葬式を済ませたばかりの中年女性アニーとその家族。山裾の静かな一軒家での暮らしは、エレンの死以降、少しずつ異常を来していく。

全体にクラシカルな印象で静けさを大事にした演出が多く、上品。突然の大音量で驚かすビックリシーンもあるにはあるが非常に少ない。また一度見た後でほじくり返したくなる魅力的な小謎も劇中いたるところに散りばめられており、考察がはかどる。実際中盤までは明らかに「怪異と思わせおいて主人公の妄想」と思わせるような誘導が張られていたが、後半に入るとその導線が一気に引っぺがされながら、且つ予想の斜め上にドンドンと突き進んでいくのが楽しい。また怪異の原因と発生を家族という共同体の不信と崩壊にうまく重ねているお話の構造も病が深く、いい感じに気が滅入る(褒め言葉)。

色んなところで言われているようにラストの展開は少々見せすぎでは無いかと自分も思うが、それまでの展開の割に急激に泥臭いそのオチも含めて、評判通りに楽しい快作。ただエクソシストキューブリックを引き合いに出すほどアートっぽい感覚をくすぐるような印象は受けなかったので、その辺りを期待し過ぎると肩すかしになってしまうかもしれない。

脚本も演出も良質だけれど何より、主人公の顔演技をぜひ見て欲しい。