フレンチアルプスで起きたこと

フレンチアルプスで起きたこと』作品情報 | cinemacafe.net

リューベン・オストルンド監督 スウェーデンデンマーク・フランス・ノルウェー 2015 118分 ☆☆☆☆

空気感がハネケ作品に似ていて、いつヤバイ隣人が登場するかとひやひやしたけど、そういう映画ではなかったものの、違うヒヤヒヤが。品の良い画面に渦巻くブラックなユーモアがめちゃくちゃ楽しい作品。

父トマスと妻エバ、まだ幼い娘と息子の四人家族は久し振りの休暇でアルプスリゾートを訪れる。楽しく過ごしていたが2日目の朝に遭遇した雪崩の際、ついつい我先に逃げ出してしまったトマスの姿を観て、エバや子ども達は釈然としない。以降、亀裂は段々と広がっていく。

とにかく脚本が素晴らしい。誰も怪我を負うこともなかった雪崩をきっかけに家族の信頼関係が崩れていく様を中心に据えながら、リゾートで出会う様々な他のカップル達(浮気旅行であったり、20歳ほども歳の離れた組であったり)も巻き込んで織り成される人間模様の色々が、どの場面もほどよく笑えるビターなコントといった雰囲気で器用にまとめられていて、そしてしっかりと面白い。

権威の失墜を認められず取り繕おうとしてより泥沼にはまっていくトマスと、そんな彼を見てますます失望を深めていくベラ。二人の雰囲気を察して落ち着かない子ども達。ラストに雪山で行われる家族再生の儀式はあまりにも陳腐だが、あの陳腐さをあえて引き受けてでも、それでも絆は取り戻されなければならないという切実な眼差しが、「家族」という共同体を皮肉りながらも暖かく見つめている。

と、しかしこの映画の楽しいのはそこで終わらないところ。本作ここまでは基本的に夫が株を下げる話なのに対し、最後の最後、だめ押しのように投下されるバスでのエピソードは、ここにきて妻のあれこれを嫌な感じで炸裂させていく。そして映画を閉じていく脚本家の底意地の悪さに、自分はとても共感を覚えた。

あんまりカップルや夫婦では観ないほうがいいかもしれない。そして家族を含め共同体は何でもそうだけど、「ほどほど」がいいのかなと改めて思う。そんな映画。

ついつい脚本について語りたくなる本作だけど、ヨーロッパらしい綺麗で終始落ち着いた画作りや音楽の使い方もうまく、進行テンポの塩梅なんかも丁度良い。全方位にこれといった隙のない秀作。